【改正・収益認識基準】契約資産と債権の開示
改正・新収益認識基準
日本においてはIFRS15を踏襲する形で、新収益認識基準(企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」 / 企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」)が公表されました。
2018年公表時には、適用に向けた準備期間を設けることを考慮したうえで、早期適用した場合の必要最低限の表示・注記等のみを定め、本格適用となる2020年4月1日までに表示・注記等のルールを検討することとしていました。
そして今年2020年3月に、主に開示に関しての改正が加わり、改正基準(改正企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」 / 改正企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」)が公表されました。
【主な改正点】
【PL】損益計算書
顧客との契約から生じる収益の表示と注記
改正企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」では、
顧客との契約から生じる収益を、適切な科目をもって損益計算書に表示する。なお、顧客との契約から生じる収益については、それ以外の収益と区分して損益計算書に表示するか、又は両者を区分して損益計算書に表示しない場合には、顧客との契約から生じる収益の額を注記する。
企業会計基準第 29 号 78項2号
することを要求しています。
つまり、損益計算書上は基本的に「顧客との契約から生じる収益」については、他の収益と区別して別掲する必要があります。
もしも、損益計算書上「顧客との契約から生じる収益」をその他収益の両方を区分せずに一括掲記する場合には、注記が必要となります。
さらに
顧客との契約に重要な金融要素が含まれる場合、顧客との契約から生じる収益と金融要素の影響(受取利息又は支払利息)を損益計算書において区分して表示する。
企業会計基準第 29 号 78項3号
とあり、支払条件等により金融要素が含まれる場合にはそれぞれ区分する必要があります。
なお、金融要素を含むかどうかについては、
契約の当事者が明示的又は黙示的に合意した支払時期により、財又はサービスの顧客への移転に係る信用供与についての重要な便益が顧客又は企業に提供される場合には、顧客との契約は重要な金融要素を含むものとする。
企業会計基準第 29 号 56項
と記されています。
簡潔にまとめると
-損益計算書の表示-
・「顧客との契約から生じる収益」は他の収益とは区分して別掲表示する
・別掲しない場合には「顧客との契約から生じる収益」の額がわかるように注記する
・契約に金融要素を含む場合、「顧客との契約から生じる収益」と区分して表示する。
【BS】貸借対照表
契約資産と債権の表示と注記
上記と同様に改正企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」では、
契約資産と顧客との契約から生じた債権のそれぞれについて、貸借対照表に他の資産と区分して表示しない場合には、それぞれの残高を注記する。また、契約負債を貸借対照表において他の負債と区分して表示しない場合には、契約負債の残高を注記する。
企業会計基準第 29 号 79項
ことを要求しています。
つまり、基本的には「契約資産」と「顧客との契約から生じた債権」は貸借対照表上、他の債権とは区分して表示する必要があります。
もしも、「契約資産」と「顧客との契約から生じた債権」を他の資産と別掲しない場合には、それぞれの金額を注記する必要があることになります。
なお、「契約資産」と「顧客との契約から生じた債権」の違いについてはこちらを参照ください。
なお、「契約負債」を貸借対照表において他の負債(買掛金等)と区分して表示しない場合にも同様に注記が必要になります。
-貸借対照表の表示-
・「契約資産」と「顧客との契約から生じた債権」は基本的に他の債権と区分して別掲表示する
・別掲しない場合にはそれぞれの金額を注記する
・「契約負債」も基本的に他の負債と区分して別掲表示するが、区分して表示しない場合には注記が必要
注記
続いて収益認識基準に関する注記について確認します。
収益認識基準として注記をする際には、①重要な会計方針の注記に行うものと、②収益認識基準に関する注記に行うものとがあります。
重要な会計方針の注記
それではまず、「重要な会計方針の注記」から確認しまししょう。
顧客との契約から生じる収益に関する重要な会計方針として、大きく分けて次の2項目を注記することが求められています。
(1) 企業の主要な事業における主な履行義務の内容
(2) 企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)
企業会計基準第 29 号80-2項
また、上記の2項目以外にも重要な会計方針に含まれると企業が判断した内容は、重要な会計方針として注記するよう定められています。
ここまでは、収益認識に関する注記ではなく、他の会計方針等とともに「重要な会計方針」として注記する内容を確認しました。
収益認識に関する注記
続いて「収益認識に関する注記」について確認します。
まずは、収益認識に関する開示を行う目的についてです。
基準には以下の通り記されています。
収益認識に関する注記における開示目的は、顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示することである。
企業会計基準第 29 号80-4項
つまり開示をしっかり行うことで財務諸表利用者が、・収益・キャッシュ・フローの性質・金額・時期・不確実性をちゃんと理解できるようにしましょうね、ということですね。
では、具体的にどのような情報を開示すれば、この目的を達成することができるのでしょうか?
企業会計基準第 29 号80-5項には以下のように記載されています。
(1) 収益の分解情報
(2) 収益を理解するための基礎となる情報
(3) 当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報
この3項目については、財務諸表等規則第8条の32(及び、連結財務諸表等規則第15条の26)にも同様の記載があります。
なお、これらの情報のうち、上述した開示目的に照らして重要性がないものについては記載を省略することが認められています。
また、どの注記項目に重点を置くかは、開示目的に照らして各企業が判断して行うことが求められます。
収益認識に関する注記情報はどの企業においてもかなりのボリュームになると思われますが、重要性のない事項で多くを埋め尽くしたり、あるいは特性が違う内容を一緒くたにして記載したりすることがないように注意しなければいけません。
(1) 収益の分解情報、(2) 収益を理解するための基礎となる情報、(3) 当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報、は具体的にどのような記載をすべきか、については別途エントリーにて解説したいと思います。
【注記】収益の分解情報
【注記】収益を理解するための基礎となる情報
【注記】当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報
※なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、いずれの団体等の見解を代表するものではありません。