【IFRS15】契約資産と債権の違い
【IFRS15】契約資産と債権の違い
IFRS15「顧客との契約から生じる収益」では「契約資産」と「債権」という用語が登場しますが、今回はこの2つの用語の意味をしっかり理解したいと思います。
いずれも日本基準の財務諸表には登場しない勘定科目なのでIFRS経験のない方は初めて見るかもしれませんが、IFRS採用企業は増え続けていますのでこの機会に確認いただければ幸いです。
契約資産と債権、売掛金との違い
収益を認識するにあたって企業が履行義務を充足した場合に、仕訳上、収益科目(すなわち売上高)の相手科目として「契約資産」又は「債権」を認識します。
日本基準だと通常「売掛金」や「受取手形」を計上するわけですが、IFRSでは異なります。
なお、IFRSではBSでは「債権」として開示し、「債権」の内訳(売掛金なのか受取手形なのか)は注記にて開示します。
※パナソニック株式会社の有価証券報告書より
契約資産と債権の区別
続いて契約資産と債権の違いについてです。
「契約資産」は、無条件の請求権として確定していない場合(すなわち支払義務が未確定)に使用し、「債権」は無条件の請求権として確定している場合(すなわち支払義務が確定)に使用します。
事例を用いて確認してみます。
商品A@1,000円を100個販売し、すべての納品が完了した段階で契約金額の支払義務が生じる、という契約だとします。
××年4月1日に商品30個を出荷し、即日検収が完了した。
借方)契約資産 30,000円 貸方) 売上高 30,000円
借方 | 貸方 |
契約資産 30,000円 | 売上高 30,000円 |
××年4月15日に残りの70個を出荷し、即日検収が完了した。
借方 | 貸方 |
債権 100,000円 | 売上高 70,000円 |
契約資産 30,000円 |
と、このように仕訳を計上することとなります。
契約負債について
あわせて「契約負債」についても確認しておきましょう。
「契約負債」は日本基準でいうところの前受金です。
企業の履行義務の充足の前に先方からの支払が生じた場合に、現金等の相手科目認識します。
こちらも事例を用いて確認してみます。
商品A@1,000円を100個販売し、50個分の代金を事前に支払い、すべての納品が完了した残金の支払義務が生じる、という契約だとします。
××年4月1日に商品50個分の代金を受け取った。
借方 | 貸方 |
現預金 50,000円 | 契約負債 50,000円 |
××年4月15日に商品100個を出荷し、即日検収が完了した。
借方 | 貸方 |
債権 50,000円 | 売上高 100,000円 |
契約負債 50,000円 |
と、このように仕訳を計上することとなります。
開示例
IFRSを採用している日本企業のいくつかの開示例を有価証券報告書を参照して確認してみました。
住友商事
住友商事
有価証券報告書2020年3月期
28 収益
(1)契約残高
① 契約資産
当社が通常の営業活動において、顧客に移転した財またはサービスと交換に受け取る対価に対する権利のうち、時の経過以外の条件が付されているものを、契約資産として連結財政状態計算書の「その他の流動資産」に含めて表示しております。当期首及び当期末の契約資産の残高はそれぞれ、48,942百万円及び117,230百万円であり、当期中における契約資産の変動の主な要因は、インフラ事業における長期請負工事契約の履行義務の充足によるものです。なお、債権の方はBS上「営業債権」と表記しています。
住友商事では「契約資産」を「その他の債権」に含め、「債権」を「営業債権」と表記していることがわかります。
味の素
味の素
有価証券報告書2020年3月期
一方、味の素では「売上債権」と表記があり、このどちらかの表記が一般的となっているようです。
どちらを使用するかはPLの収益の表記との兼ね合いがあるかもしれません。
なお、味の素では「契約資産」に関する記述は見当たりませんでした。
パナソニック
パナソニック
有価証券報告書2020年3月期
(5) 契約残高
顧客との契約から生じた営業債権、契約資産及び契約負債の残高は、次のとおりです。
~
契約資産は主に、顧客との契約について期末日時点で一部又は全部の履行義務を果たしているが、まだ請求していない財又はサービスに係る対価に対する当社の権利に関連するものです。契約資産は、対価に対する権利が無条件になった時点で債権に振り替えられます。
パナソニックでは、「契約資産」をその他の債権等には含めず独立して掲記していることがわかります。
その他
電通グループ、日本たばこ産業(JT)、花王、味の素はいずれも契約資産に関する記述はなかったため、重要性がないか発生していないか、ということと思われます。
※なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、いずれの団体等の見解を代表するものではありません。