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【税効果会計】法定実効税率の計算方法【2024年現在】

【税効果会計】法定実効税率の計算方法※2024年現在

法定実効税率の計算方法

今回は税効果会計において不可分の要素である法定実効税率(以下「実効税率」と記載)の計算方法を確認します。

インターネットで検索すれば実効税率はいくらでも確認することはできますが、実効税率の計算方法やその考え方を理解することで、税効果会計や税務、ひいては会計全般について理解を深めることができると思います。

 

早速、実効税率の計算方法に行きたいところですが、まずは実効税率とは何なのか、から確認します。

既に理解している方は読み飛ばし、計算方法から読み始めてください。

 

実効税率とは

実効税率とは、法人の実質的な所得税負担率のことをいいます(要は利益に対して課される税金の割合)。

日本における法人の所得税では、事業税が損金算入される影響を考慮した上で算出する法人税住民税および事業税をまとめた税率です。

 

シンプルにいうなら、会社の(会計上の)利益に実効税率を掛けた金額が会社が支払う税金といえます。

※ただし企業会計において実際には会計上算出する利益と税務上算出する利益は異なるため、上記の計算は基本的に成立しません。

この会計と税務の違いを計算し、企業会計に反映するのが「税効果会計」です。

実効税率の計算方法

では、実効税率の計算方法を確認しましょう。

実効税率は以下の算式で求めることができます。

なぜこのような一見わかりづらい算式になるのでしょうか。

これには以下の理由があります。

 

この式のポイントは2つ。

分子の「(法人税率×住民税率)」の部分と分母の1+事業税率」です。

 

ポイント① 「(法人税率×住民税率)」

なぜ住民税率は単純にプラスするのではなく、法人税率に掛けるのか。

それは法人税、事業税とは課税標準(税率を掛ける対象)が異なるためです。

 

法人税事業税については、企業の所得(≒利益)に税率を掛けて税金を計算しますが、住民税「法人税額(=所得×法人税率)」に対して住民税率を欠けて住民税を計算します。

このように、住民税は法人税、事業税とは課税標準が異なるため、実効税率の計算時に「(法人税率×住民税率)」と表現されることとなります。

 

ちなみに、この計算で算出する分の住民税を「法人税割」と言います(法人住民税には「均等割」と呼ばれる分もありますが、これは所得に応じて支払うものではなく、従業員数や資本金に応じて支払います)。

 

ポイント② 「1+事業税率」

続いて、分母の「1+事業税率」の部分についてです。

なぜこのような式が入るのでしょうか。

 

法人所得税のうち、法人税、住民税は損金(税務上の費用)になりませんが、事業税は税務上損金として認められています。

つまり事業税を支払う事で、所得が減少しその分負担する税金が減少します。

これを実効税率の計算で表現したものが、分母の「1+事業税率」となります。

 

損金になるから、というのはわかったけど、それがなぜ「1+事業税率」になるの?と思われる方もいるかと思いますが、ここから先の計算はマニアックな領域なので、一旦ここまでの理解で十分と思われます(機会があれば別途解説記事を書きます)。

 

表面税率

ちなみに、実効税率は会計上の利益に掛けて税金を算出するため上記のような算式になりますが、税務上の利益(課税所得)に税率を掛ける場合は「表面税率」を用います。

表面税率は実効税率の計算から分母を取り除いた式になります。

 

 

ここから先はより実務的に

さてここまで実効税率の基本的な部分を解説しました。

おそらく資格受験者が勉強するのはこの当たりまでの知識で十分です。

しかし、当ブログの主購読者層である、上場企業の経理パーソンや有資格者にはここまでの情報だけでは不十分でしょう。

 

ここから先はより実務的な解説及び計算方法の説明になります。

まず、上場企業の多くが適用対象となる「超過税率」について確認します。

 

超過税率とは

「超過税率」は各地方団体が独自に標準税率を超える税率を条例で定め課税する際の税率です(したがって、超過税率は地方税のみ)。

下記のリンク先からもわかるように、超過課税の実施状況は各地方団体により様々で、適用する超過税率も異なります。

超過課税の実施状況(総務省HP/平成31年度)

また対象企業の基準も各自治体が独自に定めています。

東京都23区内の場合は、基本的に資本金が1億円超の企業です(詳細はこちら)。

 

ここでは、東京都23区内で外形標準課税対象(資本金1億円超)で超課税率適用対象の企業を前提に実効税率を確認します。

東京都(外形標準/超過税率適用)の場合(2024年時点最新)

東京都(外形標準/超過税率適用)の場合

-2024年最新版-

税率 国/地方 税率情報リンク
法人税 23.2% 国税 国税庁HP(法人税率)
住民税(超過) 10.4% 地方税 東京都主税局HP
地方法人税 10.3% 国税 国税庁HP(地方法人税率)
事業税(超過) 1.18% 地方税 東京都主税局HP
事業税(標準) 1.0% 地方税 東京都主税局HP
特別法人事業税 260.0% 地方税 東京都主税局HP(特別法人事業税率)

※東京都は超過税率を実施していますが、計算過程で事業税の標準税率も使用します(補足②参照)。

 

これを計算式に当てはめると、以下のとおり30.62%となります。

なお、現在(2024年3月時点)では上記の各種税率の変更は予定されていないため、一時差異等の解消時期がいつであっても30.62%の税率を使用します。

 

 

 

 

これをExcelの算式で記載すると以下のようになります(少数点以下第3位を四捨五入)。

コピペすればそのまま使えるので、気になる方は利用してみてください。

実効税率 Excel計算式(東京都 外形標準/超過税率適用)

=ROUND((23.2%+(23.2%*(10.4%+10.3%))+(1.18%+(1%*260.0%)))/(1+(1.18%+(1%*260.0%))),4)

 

大阪府(外形標準/超過税率適用)の場合

-2024年最新版-

税率 国/地方 税率情報リンク
法人税 23.2% 国税 国税庁HP(法人税率)
住民税(超過) 2.0% 地方税-大阪府 大阪府HP
住民税(大阪市) 8.2% 地方税-大阪市 大阪市HP
地方法人税 10.3% 国税 国税庁HP(地方法人税率)
事業税(超過) 1.18% 地方税 大阪府HP
事業税(標準) 1.0% 地方税 大阪府HP
特別法人事業税 260.0% 地方税 大阪府HP(特別法人事業税)

これを計算式に当てはめると、以下のとおり30.58%となります。

実効税率 Excel計算式(大阪府 外形標準/超過税率適用)

=ROUND((23.2%+(23.2%*((8.2%+2%)+10.3%))+(1.18%+(1%*260%)))/(1+(1.18%+(1%*260%))),4)

 

 

【補足①】住民税率と地方法人税率(分子の「住民税率」の算出方法)

法人税上の住民税は、「地方税の住民税」「国税」の地方法人税から構成されています。

どちらも課税標準は「法人税額」であるため、シンプルに住民税率と地方住民税率を足した税率を使用すれば問題ありません。

 

 

【補足②】事業税率と特別法人事業税率(分母及び分子の「事業税率」の算出方法)

事業税率の算出の際、超過税率を実施している地域では注意すべき点があります。

特別法人事業税は課税標準が「事業税所得割額(=基準法人所得割額)」ですが、「超過税率」適用企業であっても、ここで使用する事業税率(特別法人事業税に掛ける税率)は「標準税率」である点です。

なお、地方法人特別税は令和元年9月30日までに開始する事業年度をもって廃止され、令和元年10月1日以後に開始する事業年度より、特別法人事業税が創設されました。

 

【補足③】地方法人税は国税

地方法人税、は「地方」とついているため、いかにも「地方税」のように見えますが、「国税」です。以下、東京都主税局のHPに掲載されている文言です。

地方法人税は、平成26年10月1日以後に開始する事業年度から創設された国税であり、法人税の申告義務がある法人が、法人税額(所得税額控除、外国税額控除、外国関係会社等に係る控除対象所得税額等相当額及び個別控除対象所得税額等相当額の控除、仮装経理に基づく過大申告の場合の更正に伴う法人税額の控除に関する規定を適用しないで計算した法人税の額)の10.3%(令和元年9月30日以前に開始する事業年度は、4.4%)(税率)を国(税務署)に対して申告納付します。

 

【補足④】法人事業税の超過税率対象は?

補足②とも関連しますが、法人事業税の超過税率を実施するのは、2023年現在、東京都、神奈川県、静岡県、宮城県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県、の8都府県が対象です。

 

2024年の税率に変動は?

2023年12月に税制改正大綱が公表されましたが、実効税率に影響を与える税率の改正はありませんでした。

ちなみに、法人税の税率は平成30年(2018年)以降、横ばいとなっており、変動していません。平成20年代後半頃は毎年法人税率が異なったため、実効税率や税効果会計の計算も煩雑でしたが、ここ数年間は実効税率にも変動がない状況が続いています。

法人税率の推移

参照:財務省HP



※なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、いずれの団体等の見解を代表するものではありません。 



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