【税効果会計】資産負債法と繰延法
資産負債法と繰延法
税効果会計についてのおさらいとして、資産負債法と繰延法の違い、そして日本の会計基準がどちらを採用しているか確認します。
そもそも資産負債法や繰延法とは何のことを言っているのか、知る必要があります。
資産負債法、繰延法とは、税効果会計の仕訳を計上するにあたっての考え方であり、会計処理の根拠となるものです。
どちらの考え方に準拠しても税効果会計の仕訳は計上できますが、その結果は微妙に異なることとなります。
では日本基準上の考え方を押さえた上で、どのように考え方が異なるか、その違いがどのような結果の差異となるのか、順番に追っていきます。
日本基準は原則として資産負債法
日本基準では資産負債法の考え方を採用しており、IFRSや米国基準も同様に資産負債法の考え方を採用しています。
税効果会計基準では、税効果会計の方法として資産負債法によることとされ、会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額に差異が生じている場合において、法人税等の額を適切に期間配分することが定められている
企業会計基準適用指針第 28 号 88項
例外として繰延法
ただし、例外的に連結決算の未実現利益に係る税効果会計については繰延法を採用しています。
未実現損益の消去に関する従来からの実務慣行を勘案し、それと整合するよう未実現損益の発生年度における売却元の税率を適用する考え方を採用した
会計制度委員会報告第6号 46項
原則は資産負債法であり、例外として繰延法が存在している点をおさえましょう。
考え方の違い
資産負債法とは
では、それぞれの定義を確認します。
「税効果会計に係る会計基準の適用指針」には以下のように記載されています。
資産負債法とは、会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額との間に差異が生じており、当該差異が解消する時にその期の課税所得を減額又は増額する効果を有する場合に、当該差異(一時差異)が生じた年度にそれに係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する方法である。
企業会計基準適用指針 第28号 89項1号
繰延法とは
続いて繰延法についてですが、こちらも資産負債法と同様「税効果会計に係る会計基準の適用指針」に以下のように記載されています。
繰延法とは、会計上の収益又は費用の額と税務上の益金又は損金の額との間に差異が生じており、当該差異のうち損益の期間帰属の相違に基づくもの(期間差異)について、当該差異が生じた年度に当該差異による税金の納付額又は軽減額を当該差異が解消する年度まで、繰延税金資産又は繰延税金負債として計上する方法である。
企業会計基準適用指針 第28号 89項2号
適用指針の文章だけだと少しわかりづらいかもしれませんが、シンプルに捉えるなら、資産負債にフォーカスしたのが資産負債法、損益にフォーカスしたのが繰延法です。
そもそも税効果会計は会計と税務のズレを調整するための会計手法ですが、資産負債法は会計上の資産負債と税務上の資産負債のズレを調整するものであり、繰延法は会計上の損益と税務上の損益を調整するものです。
税率の違い
このような考え方の違いによって、まず第一に準拠する税率に違いが出ます。
資産負債法の税率
資産負債法により計上する繰延税金資産又は繰延税金負債の計算に用いる税率は、一時差異の解消見込年度に適用される税率である
企業会計基準適用指針 第28号 89項1号
資産負債法では、一時差異の解消見込年度に適用される税率を使用します。
会計年度によって税率が異なることがありますので、適用する税率を間違えないように計算することが求められます。
また、解消見込年度の税率に変更があれば、税効果会計の計算も見直す必要がある点に注意が必要です。
少しマニアックな話ですが、資産負債法では、計上される繰延税金資産は税金の前払いとしての性質があります(負債の場合は未払い)。
実際に税法に基づいた税金の負担は、繰延税金資産を計上した会計期間で完了しますが、この前払い分の恩恵を受けるのは後の会計期間となります。
したがって、会計上と税務上の資産負債を整合させることを目的とすると、課税されるタイミングの税率(すなわち一時差異の解消見込み年度に適用される税率)を使用する必要があります。
※考え方を理解していた方が全体像をつかみやすいので記載していますが、細かい論点なので読み飛ばしてもOKです。
繰延法の税率
繰延法により計上する繰延税金資産又は繰延税金負債の計算に用いる税率は、期間差異が生じた年度の課税所得計算に適用された税率である
企業会計基準適用指針 第28号 89項2号
繰延法では、期間差異(会計と税務の違い)が生じた年度の課税所得計算に適用された税率を使用します。
資産負債法とは異なり、1会計期間で使用する税率は1つしか存在しないことを意味します。
これは資産負債法とは対照的に、繰延法が当該会計期間の損益の調整を重視しているためです。
税務上では課税関係は完了しており、税率が変更されたとしても見直しは行いません。
回収可能性の違い
税効果会計の実務において厄介な回収可能性ですが、これは資産負債法の考え方に基づいた処理だからこそ生じます。
繰り返しになりますが、資産負債法では繰延税金資産は税金の前払いの性質を有しています。
これはつまり、後の会計期間の課税所得を減少させる(将来減算一時差異)ものであるため、後の会計期間において利益が出ていなければその効果を発揮しません。
かみ砕いていえば、将来の税金を減らす効果を持っていても、税金が発生するような利益がなければ効果を発揮しようがない、ということです。
将来的に効果を発揮しようがないのであれば、繰延税金資産は計上できないルールになっていて、この効果を発揮できるかどうかを専門用語で回収可能性と呼んでいます。
資産負債法とは異なり、繰延法ではあくまでその会計期間の会計と税務の損益の違いにフォーカスしているので将来の利益の多寡に左右されません。
したがって回収可能性を検討する必要がないと言えます。
一時差異と期間差異の違い
税効果会計では一般的に「一時差異」と「永久差異」という用語を目にするかと思います。
これは資産負債法の考え方で、資産負債法における会計と税務の違いのうち、将来解消される差異を「一時差異」、将来解消されない差異を「永久差異」と言います。
例えば、減価償却による償却費から生じる差異は「一時差異」であり、「永久差異」は交際費なんかがそうです。
一方、繰延法では「一時差異」ではなく「期間差異」という表現をします。
「期間差異」は「一時差異」にかなり近しいものですが、「一時差異」にはあって「期間差異」にはないものがある、という関係です。
「一時差異」の方が広範で、期間差異に該当するものはすべて「一時差異」に含まれます。
これを図で表したものがこちらです。
なお、当該関係については企業会計基準適用指針 第28号 90号に記載があります。
資産負債法における一時差異と繰延法における期間差異の範囲はほぼ一致するが、有価証券等の資産又は負債の評価替えにより直接純資産の部に計上された評価差額は、一時差異ではあるが期間差異ではない。なお、期間差異に該当する項目は、すべて一時差異に含まれる。
企業会計基準適用指針 第28号 90号
「期間差異」と「一時差異」の違いの例
この「期間差異」と「一時差異」の違いの代表的な例として、その他有価証券評価差額が挙げられます。
その他の有価証券は期末に時価評価を行うため、資産、負債に影響を与えますが、評価差額は純資産に直接計上されるため、損益には影響を与えません。
したがって、資産負債にフォーカスする資産負債法では税効果会計の対象となりますが、損益にフォーカスする繰延法では税効果会計の対象とはなりません。
したがって、その他有価証券評価差額は「一時差異」ではあっても「期間差異」にはならないこととなります。
まとめ
ここまで見てきた内容についてまとめた表が以下になります。
資産負債法 | 繰延法 | |
定義 | 会計上の資産又は負債の額と課税所得計算上の資産又は負債の額との間に差異が生じており、当該差異が解消する時にその期の課税所得を減額又は増額する効果を有する場合に、当該差異(一時差異)が生じた年度にそれに係る繰延税金資産又は繰延税金負債を計上する方法 | 会計上の収益又は費用の額と税務上の益金又は損金の額との間に差異が生じており、当該差異のうち損益の期間帰属の相違に基づくもの(期間差異)について、当該差異が生じた年度に当該差異による税金の納付額又は軽減額を当該差異が解消する年度まで、繰延税金資産又は繰延税金負債として計上する方法 |
税率 | ・一時差異の解消見込年度に適用される税率 ・税率の見直し必要 |
・期間差異が生じた年度の課税所得計算に適用された税率 ・税率の見直し不要 |
回収可能性 | ・回収可能性の検討が必要 | ・回収可能性の検討は不要 |
差異 | ・一時差異 | ・期間差異 |
※なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、いずれの団体等の見解を代表するものではありません。