監査提言集の話
今日、監査提言集が届いたので、どんなもんかと最初の不正事例を読んでみたら、ツッコミどころ満載過ぎたので紹介します。
事例の概要
まずは事例の概要をお伝えします。
新規事業を任された営業担当者が、他者から会社に転籍した時から不正が発覚するまでの間、証憑書類等を偽造し、売上の架空計上を行っていた。
とあります。
なぜ営業担当者がこんな手のこんだこと(証憑書類、具体的には物品受領証等の偽造)までして、不正をしたのかは記載がありませんが、ボーナス等で大きなインセンティブがあったのでしょうか。
この不正により、特定の販売先A社への売上は会社全体の約20%を占める程となっていたそうです。
そして当該債権の回収期間が長期化していました。
監査人の対応
ここからが問題です。
ここでは細かいところまでは記載しませんが、要点をまとめます。
これらの状況に対し、監査人は以下のような対応をとっています。
(一部私が加筆していますが、理解しやすくするためのものです)
・A社の売上に対する証票突合し、問題ないと判断。
・A社に対し残高確認を実施したが、回答が得られなかったため、代替的な手続きとして、担当者への質問を実施した。担当者からは、決算日の3カ月後に入金予定との説明があったが、裏付けとなる資料は入手しなかった。また、A社から会社との取引はない旨の連絡があった。
・会社との取引はない旨のA社からの連絡に関しては、「不正による重要な虚偽表示を示唆する状況」を識別しなかったため監査計画を見直さず、以下の手続きを実施して、十分かつ適切な監査証拠を入手したと判断した。
―経営者に質問を実施した。
―会社の顧問弁護士から意見を聴取し、取引は有効との結論を得た。
―会社内部の保管資料を閲覧した結果、必要な証憑類は整っていた(証憑は全て偽造されていた)。
いかがでしょうか?
どの監査法人が対応したものかわかりませんが、こんな手続きを実施して問題ないと判断し、不正を見逃していたのであれば「会計士は何やってんだ」と投資家から文句を言われても何も言い返せない程ひどい対応です。
同じ会計士として恥ずかしいくらいです。
取引先へ確認状を送付し、回答がなく、取引がない、とまで言われているのに、経営者やら顧問弁護士に質問し、偽造された証憑を見て、問題なしと判断できてしまうことが驚きです。
監査制度の問題
一方で、今までも同じようなレベルで不正が見逃されてきたことはいくつもあるでしょうし、これを個人の資質うんぬんの問題にしてしまうところに監査の大きな問題があるとも思っています。
結局監査もビジネスとしてやっていて、お金をもらっている企業に強く言えない環境ができてしまっているわけで、これをなんとかしない限りこの手の問題がなくなることはないと断言できます。
「あんたたち不正やっているでしょ。監査意見出さないよ。」と言ってしまえば、契約がなくなってしまうわけですから。
公認会計士協会の提言
この不正に対する、会計士協会の提言も載せておきます。
これは一字一句漏らさず記載します。
- 取引先などから通報等があった場合、その通報の内容が不正による重要な虚偽表示を示唆する状況かどうかについて慎重に検討する
- 不正による重要な虚偽表示を示唆する状況が識別された場合には、不正による重要な虚偽表示の疑義が存在していないかどうかを判断する。
- 不正による重要な虚偽表示の疑義があると判断した場合には、想定される不正の態様等に直接対応した監査手続きを立案するよう監査計画の修正を行う。
というわけで、実質的には何も提言できていません。
要約すると、「これからはもうちょっと注意してやろうね」くらいのことしか書かれていないんですね。
最後に
まだ最初の事例しか見ていませんが、先が思いやられる監査提言集。
作成してくれた方々には酷評してしまい申し訳ない気持ちもあります。
ただ時代の移り変わりとともに不正を発見することを重視するのであれば(本来的には監査は不正を発見するためのものではない、というスタンスでしたが最近はそうは言っていられない状況になりました)、このような提言集を作るのではなく、あるいへ並行して、根本的かつ抜本的に監査制度を見直すことを始めるべきだと思います。
法律が絡むのでそう簡単にはいかないのでしょうけども。
※なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、いずれの団体等の見解を代表するものではありません。