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キーエンスの監査報酬について

キーエンスの監査報酬について

キーエンスの監査報酬

今日twitterを眺めていたらこんなツイートを発見しました。

時価総額14兆円、連結売上5,000億円をこえるキーエンスの監査報酬が2,900万円とは驚きです。

 

売上が多ければ監査報酬も高くなる、と一概には言えませんが、ここまで安く抑えることができるのは相当な工夫がなされているのではないかと思います。

 

監査報酬の相場をご存じない方も多いと思いますが、連結売上500億円に満たない会社でも3,000万~4,000万円は監査報酬を請求されている会社があることを鑑みると、非常に安いことがわかると思います。

 

ではなぜキーエンスはこれほど監査報酬を安く抑えることができているのでしょうか。

私はキーエンスの監査を担当している監査法人トーマツに所属していたこともありませんし、トーマツの監査担当をしている知人もいませんので、予想の域を出ませんがいくつか要因について考えてみたいと思います。

キーエンスの監査報酬の秘密

① 事業がシンプル

まず最初に上げられる要因として、事業内容がシンプルであることです。

事業が多岐にわたるほど1つ1つ検証するのに要する時間やコストは増えるので、事業内容がシンプルなのではないか、という予想です。

 

実際、有価証券報告書を見るとキーエンスセグメント「電子応用機器の製造・販売を展開する単一セグメント」であることがわかります。

例えばこれがソニーであれば「ゲーム&ネットワークサービス」「音楽」「映画」「エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション」「イメージング&センシング・ソリューション」「金融」等とセグメントは多岐にわたります。

このようにセグメントが多岐にわたると、商流がそれぞれ異なるため、監査のアプローチもそれぞれ異なることとなり、その分作業負担が増えるため当然監査報酬は高くなります。

ちなみにソニーの監査報酬は単体で約6億円、連結子会社を含めると約15億円にも上ります。

単体ベースで比較してもキーエンスの10倍以上です。

 

② 経理部員のレベルが高く決算体制が整備されている

2つ目の要因として経理部員のレベルが高く、決算体制が整っていることが予想されます。

 

監査を効率的に行えるかどうかは、経理部員のレベル、ひいては会社の決算体制がどれだけ整備されているかにかかっているといっても過言ではありません。

 

監査法人から見て会社の透明性が高ければ高いほど、監査サイドでアレコレと手を動かす必要がなくなるため、その分監査報酬も安く抑えることができます(監査報酬は基本的に所要時間×単価で計算されます)。

 

では具体的に経理レベルが高く、決算体制が整っている会社とはどういう会社を言うのでしょうか。

具体例として1つあげるとすれば、仮に前期末と比較して大幅に借入金が増えていた時に、なぜそんなに借入金が増えているのかを即答できる状態か、ということがあります。

借入金が大幅に増えていれば監査サイドは必ずなぜ増えたのかを質問することになりますが、それが賞与原資なのか、設備投資資金なのか、はたまた買収資金なのか、経理担当者が把握できているか否かは決算体制の試金石と言えます。

当然これは借入金に限った話ではありません。

売上高、売上原価、人件費や減価償却費、営業債権・営業債務に退職給付債務や引当金でも同じことが言えます。

 

このような決算体制構築について個人的に参考になったのはこちらの書籍(決算早期化の実務化マニュアル「経理の仕組み」で実現する/武田雄治著)で、ここにある決算体制を敷ける会社は相当程度、監査報酬を低減できるのではないかと思います。

おそらくキーエンスの決算体制は相当整備が進んでおり、監査サイドからしても容易に監査ができる体制になっているのではないかと思われます。

 

ちなみにキーエンスの監査では、パートナーと呼ばれる公認会計士が2名と、そのほかに4名の公認会計士、その他の8名と合計14名で監査が完了した旨、有価証券報告書(2020年3月期)に記載されています。

どの程度の人数で監査が行われているか、外部からはあまり伺い知れないかと思いますが、これは非常に少ない人数です。

例えばトヨタでは合計156名

ソフトバンクだと合計95名

どれだけ少ない人数か、一目瞭然だと思います。

14名で監査が完了できる体制を構築できている、というのはやはり異質であり、凄いことです。

 

余談ですが、一般的にBIG4と呼ばれる監査法人(トーマツ、新日本、あずさ、PwCあらた)よりも中小監査法人の方が監査報酬は安くなります。

したがって、現在はトーマツが監査を行っていますが中小監査法人に契約変更した場合にはさらに低価格にすることも可能になるかもしれません。

最後に

ここまでキーエンスの監査報酬の秘密について考察してきましたが、あくまですべて予想に基づくものであり、実態がどのようになっているかまではわかりません。

監査という仕事がどのような仕事なのか、まだまだ一般には理解されていない所が大きいと思っていますが、同業者であっても担当経験がない会社については内容を推し量るのは難しく、明確な答えを出すことはかないませんし、公表される資料にもあまり監査の詳細までは記載されません。

2021年3月期からはKAM(監査上の主要な検討事項)が導入されますが、今後さらに監査に関する情報公開が進めば、キーエンスの監査報酬の秘密も明らかになるかもしれません。

また、監査報酬だけでなく業績や給与等、様々な観点で素晴らしいパフォーマンスを見せている企業ですので、今後も注視していきたいと思います。

 

※2021年2月に加筆修正しました。



※なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、いずれの団体等の見解を代表するものではありません。 



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