【収益認識基準】履行義務充足による収益の認識
収益認識基準では、以下の5ステップに従って収益認識を行います。
ステップ1 契約の識別
ステップ2 履行義務の識別
ステップ3 取引価格の算定
ステップ4 履行義務に取引価格を配分
ステップ5 履行義務充足による収益の認識
今回は、ステップ5の「履行義務充足による収益の認識」についてまとめます。
履行義務充足による収益の認識とは?
ステップ4で履行義務に取引価格が配分され、ステップ5でいよいよ履行義務が充足されることで収益を認識します。
では履行義務充足によって収益を認識する、とはどういうことなのか確認していきます。
まずは基準を確認します。
企業は約束した財又はサービス(本会計基準において、顧客との契約の対象となる財又はサービスについて、以下「資産」と記載することもある。)を顧客に移転することにより履行義務を充足した時に又は充足するにつれて、収益を認識する。
そして、
資産が移転するのは、顧客が当該資産に対する支配を獲得した時又は獲得するにつれてである。
企業会計基準第 29 号 第35項
とあります。
少しわかりづらいので分解して理解してみます。
履行義務の充足
まず、履行義務の充足についてですが、履行義務は契約によって約束した財(サービス)が顧客に移転することで充足される、とあります。
製品を販売する会社であれば、顧客に製品を受け渡すイメージですね。
資産(財・サービス)の移転
しかし、物理的に製品が顧客に引き渡されただけでは、財(サービス)が顧客に移転したとは言い切れません。
どういうことかと言うと、財が顧客に移転するのは顧客がその財に対する支配を獲得した時になります。
「支配」の概念については以下のエントリーで触れましたが、定義を再度確認しましょう。
支配の定義
当該資産の使用を指図し、当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力(他の企業が資産の使用を指図して資産から便益を享受することを妨げる能力を含む。)
(企業会計基準第 29 号 37項)
要は、自分の好きなように使ったり、売ったりして、その資産の利益を享受できる状態である、ということです。
さて、①履行義務の充足、②資産の移転、③支配の定義についてそれぞれ確認しました。
ここでもう一度基準の文言に立ち返ってみましょう。
企業は約束した財又はサービス(本会計基準において、顧客との契約の対象となる財又はサービスについて、以下「資産」と記載することもある。)を顧客に移転することにより履行義務を充足した時に又は充足するにつれて、収益を認識する。
資産が移転するのは、顧客が当該資産に対する支配を獲得した時又は獲得するにつれてである。
企業会計基準第 29 号 第35項
販売する企業が、製品の移動を物理的に制限している、あるいは、買い戻し請求権を有している、顧客の使用方法や販売先を制限している、等々という状況下では顧客は支配を獲得していないので、企業は収益を認識することができない、ということです。
さて、ここでは理解しやすいよう、一時点で履行義務が充足される場合を前提に解説しましたが、一定の期間にわたって履行義務が充足される場合もあります。
一定の期間にわたり充足される履行義務
収益認識基準では、以下の(1)~(3)のいずれかに該当する場合には、一定の期間にわたり履行義務を充足し収益を認識する、とされています。
(1) 企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受すること
(2) 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、資産が生じる又は資産の価値が増加し、当該資産が生じる又は当該資産の価値が増加するにつれて、顧客が当該資産を支配すること
(3) 次の要件のいずれも満たすこと
① 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、別の用途に転用することができない資産が生じること
② 企業が顧客との契約における義務の履行を完了した部分について、対価を収受する強制力のある権利を有していること
(企業会計基準第 29 号 38項)
では(1)から(3)まで、簡単に具体例を示して解説します。
(1) 企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受すること
このパターンは、長期間にわたって駐車場を貸し出す場合等をイメージするとわかりやすいと思います。
3年間にわたって駐車場を賃貸借する契約を結んだ場合、月10,000円×36カ月で360,000円ですが、この360,000円を一括で計上はしませんよね。
当然のことながら、毎月10,000円ずつ収益を計上するわけですが、これは1月毎に「契約における義務を履行」しているからこその会計処理です。
そして月日が経過するのに比例して「履行義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受」していくことになります。
(2) 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、資産が生じる又は資産の価値が増加し、当該資産が生じる又は当該資産の価値が増加するにつれて、顧客が当該資産を支配すること
この文言は少し理解しづらいかもしれまえせんが、工事契約をイメージするとわかりやすいです。
適用指針の設例でも事例が紹介されていますが、例えば工事期間が3年間にわたる契約において、一時点で収益を計上するとなると、1年目と2年目には一切収益が計上できなくなってしまいます。
そうではなく、工事を進めること(義務を履行すること)で資産の価値は増加していくと捉え、工事の進捗に合わせて収益を計上しましょう、ということがこの基準の言わんとしているところになります。
このような工事契約において、一定期間にわたって収益を計上する場合の金額については、これまでの工事進行基準と同様の処理が認められています(企業会計基準第 29 号 第41~44項)。
また、工事の進捗度を合理的に見積もることができない場合には原価回収基準によって処理することが求められています(企業会計基準第 29 号 第45項)。
(3)-① 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、別の用途に転用することができない資産が生じること
企業が顧客との契約にしたがって、顧客専用のオーダーメイド製品を製造していて、かつ、製造期間が長期間にわたる場合がイメージしやすいと思います。
企業が顧客の要望にしたがって製造するオーダーメイドの製品は、他の顧客には使用価値のないものであり、転用することができません。
(3)-② 企業が顧客との契約における義務の履行を完了した部分について、対価を収受する強制力のある権利を有していること
((3)-①の続き)そして契約時に、義務(ここではオーダーメイド製品の製造)の履行を継続したならば、どのような場合にあっても顧客に対し強制的に対価を収受する権利があることがあることが条件となります。
対価を収受する強制力のある権利とは何ともわかりづらい文言ですが、とたとえば顧客側がこのオーダーメイドの製品のキャンセルを申し入れた場合に、その時点までの義務の履行に対する収益分を受け取ることができる権利のことです。
このようなケースにおいては、製品の完成時点ではなく、製造期間にわたって収益を計上することになります((3)-①、(3)-②のいずれも要件も満たしている場合のみ)。
※なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、いずれの団体等の見解を代表するものではありません。