【収益認識基準】本人と代理人
本人と代理人の区分
収益認識基準では収益認識のための5ステップの論点と同様に「本人と代理人の区分」が大きな論点となります。
本人と代理人の区分については、「収益認識に関する会計基準」よりも「収益認識に関する会計基準の適用指針」に詳しい記載がありますので、原文にあたる際は注意しましょう。
本人と代理人の区分の前提
本人と代理人の区分が問題となる場合、「顧客への財又はサービスの提供に他の当事者が関与している」ことが前提となります。
要は、商品やサービスを提供する企業と、それを受領する企業以外の第三者が存する場合です。
他の当事者が関与していなければ、企業は常に「本人」と考えて差し支えないでしょう。
本人と代理人の区分の判断
ざっくり表現すると、以下のように判断します。
上述した前提である「顧客への財又はサービスの提供に他の当事者が関与している」場合にあって、財又はサービスを企業が自ら提供する場合には、企業は本人に該当します。
(企業会計基準適用指針第 30 号 39項)
一方、「顧客への財又はサービスの提供に他の当事者が関与している」場合にあって、財又はサービスを他の当事者が提供する場合には、企業は代理人に該当します。
(企業会計基準適用指針第 30 号 40項)
これをフローで表すと下記の図になります。
本人と代理人の区分は、個々の財やサービスごとに行う
この本人と代理人の区分は、個々の財やサービスごとに行う必要があります。
1つの契約であったとしても別個の財やサービスを提供する場合には、それぞれで本人か代理人か判断が求められます。
(企業会計基準適用指針第 30 号 41項)
自ら提供しているか、他の当事者が提供しているかの判断
本人か代理人かの判断について、「自ら提供するか否か」、という点が重要であることはご理解頂けたかと思いますが、自らが提供しているか、他の当事者が提供しているか、については慎重な判断が求められます。
では、続いて判断手順について確認します。
判断手順
企業が自ら財又はサービスを提供しているかどうかの判断については以下の手順で行います。
ー判断手順ー
① 顧客に提供する財又はサービスを識別すること
② 財又はサービスのそれぞれが顧客に提供される前に、当該財又はサービスを企業が支配しているかどうかを判断すること
(企業会計基準適用指針第 30 号 42項)
① 顧客に提供する財又はサービスを識別すること
①については企業の提供する財又はサービスを適切に識別することを意味します。
例えば、A社が運営するウェブサイトにおいて、B社の製品を販売しています。
このA社が展開するウェブサイトは供給者(B社)が製品を提供し、当該製品を購入した顧客にB社が直接製品を受け渡すことで、A社が供給者(B社)からマージンを受け取るというプラットフォームとなっています。
したがって、顧客がウェブサイトでB社製品を購入した場合にA社が提供するのは、B社に顧客へ適切に製品を引き渡すように手配するというサービスとなります。
製品(財)を顧客へ引き渡すのはあくまでB社です。
商流が複雑になりつつある現在において収益認識を適切に行うためには、顧客に提供する財又はサービスを適切に認識しなければいけません。
また、同一の契約において企業が本人と代理人の両方に該当する場合もあるため、これらを混同しないように認識する必要があります。
② 財又はサービスのそれぞれが顧客に提供される前に、当該財又はサービスを企業が支配しているかどうかを判断すること
②についてはまず「支配」の定義について確認します。
支配の定義
資産に対する支配とは、
当該資産の使用を指図し、当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力(他の企業が資産の使用を指図して資産から便益を享受することを妨げる能力を含む。)
(企業会計基準第 29 号 37項)
を言います。
簡単に言い換えれば、自分の好きなように使ったり、売ったりして、その資産の利益を享受できるということです。
上記の事例で見てみると、A社はB社の製品に対して、「使用を指図」することもできなければ、「当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力」もありません(使用を指図するのも便益を享受するのもB社)。
B社の製品はB社のものですから、当然A社が勝手に使用したり、勝手に販売してその利益を得たりすることはできないわけです。
したがってこのケースでは①と②の両方を鑑みた結果、企業が自ら財又はサービス提供していない、と判断できます。
つまり、A社は代理人である、というのが結論です。
【補足】本人に該当する場合
本人に該当する場合については以下のエントリーで解説しましたのでご参照ください。
本人と代理人の場合の会計処理
本人の場合の会計処理
企業が本人である場合には、財又はサービスを提供した対価として収受する金額を総額で収益として認識します。
(企業会計基準適用指針第 30 号 39項)
代理人の場合の会計処理
企業が代理人である場合には、他の当事者が財又はサービスを提供するための手配をすることと交換に企業が得る報酬又は手数料の金額を収益として認識します(case.1)。
あるいは、他の当事者が提供する財又はサービスと交換に受け取る額から当該他の当事者に支払う額を控除した純額を収益として認識します(case.2)。
(企業会計基準適用指針第 30 号 40項)
Case.1の仕訳
Case.1の場合を、上述した事例を使って表すと以下のようになります。
A社はウェブサイトでB社の製品が購入された場合、販売数量に応じて1つにつき1,000円の手数料を受け取る契約を結んでいます。
そこでウェブサイト上にてB社の製品Xが5つ売れたため、B社に対して以下の仕訳を計上します。
(借方)売掛金 5,000円 (貸方)売上高5,000円
Case.2の仕訳
Case.2の場合を、上述した事例を使って表すと以下のようになります。
A社はウェブサイトでB社の製品が購入された場合、顧客から受け取る売上金から20%を控除した金額をB社に支払うという契約を結んでいます。
そこで、ウェブサイト上にてB社の製品Y(販売価格10,000円)が売れたため、B社に対して以下の仕訳を計上します。
(借方)売掛金 2,000円 (貸方)売上高2,000円
補足
以下のエントリーで、補足しましたのでご参照ください。
本人に該当するケース
財又はサービスを支配しているかどうかを判断するための指標
※なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、いずれの団体等の見解を代表するものではありません。