【収益認識基準】本人と代理人【補足】
こちらのエントリーにて収益認識基準で主要な論点となる本人と代理人の区分について解説しました。
ここでは上記のエントリーの補足として、本人と代理人の区分において「本人」に該当する場合について解説します。
本人と判断されるかどうかについて理解するためには、「支配」の定義を理解していることが重要になりますので上記エントリーにてまずは「支配」の定義をご確認ください。
本人に該当するケース
以下のケースに当てはまる場合、すべて「本人」に該当し、「本人」としての会計処理が求められます。
ケース①
企業が他の当事者から受領し、その後に顧客に移転する財又は他の資産を支配している
ケース②
他の当事者が履行するサービスに対する権利を支配している
ケース③
他の当事者から受領した財又はサービスで、企業が顧客に財又はサービスを提供する際に、他の財又はサービスと統合させるものを支配している
では1つ1つ確認してみましょう。
ケース① 企業が他の当事者から受領し、その後に顧客に移転する財又は他の資産を支配している
本人と代理人の区分が論点となるケースでは、前提として顧客への財の提供に他の当事者が関与していますが、財(資産)が顧客へ提供される前に企業がこの財を支配している時には、企業は本人に該当します。
これはつまり顧客へ財(サービス)が提供される前に、リスクと経済価値のほとんどが会社へ移転していることを意味します。
要は在庫リスクも負うし、価格も会社が決定できる状態ですから、代理人ではなく本人として会計処理することになります。
※なお、収益認識基準はIFRS15をベースとして構成されており、IFRS15ではリスク・経済価値モデルから支配モデルへ移行しているため、リスク・経済価値という表現は適切ではありませんがここではわかりやすさを優先して使用しています。
ケース② 他の当事者が履行するサービスに対する権利を支配している
他の当事者が提供するサービスに対する権利を支配している場合、企業は本人に該当します。
サービスに対する権利というのがイメージしづらいと思いますので、解説します。
A社が所有するとあるビルにB社が入居しています。
A社はB社との契約で、B社が入居しているフロアの清掃を請け負います。
そこで、A社はフロアの清掃をC社に外注することにします。
ここでB社に対する清掃サービスを請け負っているのはあくまでA社であり、C社に清掃サービスを発注しているのはA社であることを認識する必要があります。
つまり、清掃サービスに関してC社に指示を出したり、C社に支払う義務を負ったりしているのはA社であり、また、B社に提供した清掃サービスの対価を受け取る権利があるのはA社である、ということです。
これを支配に関する定義にある用語を使用すると、
A社は当該サービスに対する「権利の使用を指図する能力及び当該権利からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を有する」と言えます。
したがって、A社はB社の履行するサービスに対する権利を支配しているため、本人に該当します。
ケース③ 他の当事者から受領した財又はサービスで、企業が顧客に財又はサービスを提供する際に、他の財又はサービスと統合させるものを支配している
これは、様々なサービスを組み合わせて顧客に財又はサービスを提供する際に、それらの財又はサービスの一部が他の当事者が関与している場合を示しています。
例えば、ある建設会社に対して大型ビルの建設の発注があった場合に、細かく分解すると以下のようなサービスが提供されます。
設計、基礎工事、調達、建設、配管、配線、設備の設置、等々です。
これらのサービスのすべてが1つの会社によって提供される場合には本人・代理人の区分は問題になりませんが、実際には一部が協力会社や外部事業者に外注されることがあります。
この時に、外注されたものの処理を本人として行うか、代理人として行うかが論点となりますが、結論としてこのようなケースでは本人として処理します。
上記のようなサービスは1つ1つ独立してサービスの提供が可能なものではありますが、ここでは大型ビルの建設が顧客の目的であり、統合されたサービスを提供することが重要であると考えます。
つまり、1つ1つのサービスを提供しただけでは顧客のニーズを満たしておらず、すべてを統合して提供することで初めて約束を果たしたと言える状況にあるわけです。
こういったケースでは、1つ1つのサービス(約束)を区分して識別できません。
したがって本人・代理人の区分では、「本人」として処理を行うことになります。
本人と代理人の区分に関してはIFRS15や収益認識基準以外で触れることがほとんどない概念のため取っつきにくい所ですが、1つ1つの取引を丁寧に整理してみましょう。
上述した通り収益認識基準はIFRS15をベースにしており読みにくい条文も多いため、基準だけを追うのではなく、設例なども参照してみるとより理解が深まります。
以上、本人・代理人の区分において本人に該当するケースの解説でした。
※なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、いずれの団体等の見解を代表するものではありません。