日本基準におけるリース会計基準の改訂について
リース会計について、IFRSでは先だって2019年1月1日以後から開始する事業年度からIFRS16号が適用されており、原則としてあらゆるリース取引がオンバランスされることとなりました。これは以前であればオンバランスされなかったオペレーティングリースもファイナンスリースと同様にオンバランスされるようになった、ということを意味します。なお、米国基準も2019年から同様にオンバランス処理を要求するように改訂されました。
一方、日本基準では依然としてオペレーティングリースはオフバランスされており、資産・負債計上されていない状況が続いています。企業会計基準委員会によれば、2019年3月に「すべてのリースについて資産及び負債を認識するリースに関する会計基準の開発に着手することを決定」したものの、現在も検討を進めている段階であり、内容及び時期については明確な発表はされていない状況にあります。
とはいえ、遅かれ早かれ国際的な会計基準へのコンバージェンスはなれることは確実ですから、日本基準においてもすべてのリース取引がオンバランスされる時に備えた準備は進めておくに越したことはありません。
2021年11月号のAccounting企業会計において、新たなリース会計基準5つの論点と称し特集が組まれていますので、これを参考に、日本基準におけるリース会計基準の改訂で、何が起き、そして何をすべきかを考えてみます。
リース会計基準の改訂による影響が大きい企業とは
繰り返しになりますが、リース基準が改訂されることにより現状オペレーティングリースとして処理しているリース取引についても原則としてオンバランス処理を行うこととなります(原則、としているのは、短期リースや少額リースについてはIFRSにおいても例外としてオフバランス処理が認められており、日本基準も同様)。
したがって、リース取引がほとんどない企業やリース取引は多数あるものの既にそのほとんどがファイナンスリースとしてオンバランスされている企業についてはその影響はほとんどないと言っていいでしょう。
一方、多くのリース契約をしているもののノンキャンセラブル・フルペイアウトの条件を満たさずにオペレーティングリースとして賃貸借処理を行っている企業においては大きな影響が生じるものと思われます。
オペレーティングリースとしての契約が多いと思われる、不動産や車両や航空機等の輸送機器、等のリース契約が多い企業においては特に注意が必要でしょう。
ではそのような企業において、リース基準の改訂によりどのような影響が生じると考えられるでしょうか。
財務指標の問題
まず、財務指標への影響が大きいことが挙げられます。
オンバランスすることにより、資産、負債が大きく膨らみますし、場合によっては支払利息の金額も大きくなることでしょう。
となると、主要な財務指標として、総資産を使用するROA(総資産利益率)や固定資産を使用する固定長期適合率、負債を使用する自己資本比率やEBITDA有利子負債倍率、支払利息を使用するインタレスト・カバレッジ・レシオ等々がありますが、これらいずれの財務指標もリース基準の改訂により悪化します。
財務指標が悪化すれば、企業の格付けが格下げされる可能性もあります。
実際、Accounting企業会計2021年11月号の記事によれば、Lufthansa(ドイツの航空企業)、International Consolidated Airline(スペインの航空企業)は2019年のIFRS16号による負債の増加により格下げが行われたようです。
R&A格付け投資情報センターによる格付け
国際間比較の問題
上述のとおり、IFRSや米国基準では2019年からリース会計が改訂されており、リースのオンバランス化は既に織り込んでいるものの、日本は先進主要国に遅れをとってオンバランス化の影響を織り込むことになります。
したがって国際間比較では日本企業の財務数値、財務指標のみが悪化することで、国際間競争において不利に働く可能性もあります。現状でもオペレーティングリースの関する情報は注記等により開示されおり、こういった情報をもとに企業価値評価が行われていると思われますが、どこまで正確に見積もれているかは疑問がのこります。
システム上の問題
また別の視点として、オンバランス化するリース契約が膨大になる場合、それらはすべて自社で所有する固定資産と同様の管理(物理的・会計的)が求められますので、システム管理は必須になりますし、固定資産管理システムを導入済みであっても、リース資産への対応が不十分だとアドオン等が必要になるかもしれません。
まだ改定後のリース会計基準がどのような内容になるか定かではありませんが、リース資産(あるいはIFRSと同様に使用権資産等)としてオンバランスする場合に、簿価の算定や支払利息の金額の算定はリース利用企業に相当な負荷となることが懸念されます。
ここ数年、様々なシステム導入案件をみてきましたが、問題なく予定通りに完了したケースを一度たりとも見たことがありません。すべてのケースで単純な準備不足、導入のための期間の短さ、人員不足等の要因が重なりあっているように思われますが、システム導入はとにかく不備が起きやすいため、早め早めに手を打ち十分なリソースをもって臨むことが重要です。
リース業界に与える影響
最後にリース業界への影響にも言及しておきたいと思います。
日本国内のリース業界は、すべてのリース契約をオンバランス化する会計基準の改訂には反対の姿勢をとっていましたが、実際IFRS16号が導入されたEU/UK企業においてはリースの使用割合が減ってきているようです(Accounting企業会計2021年11月号参照)。
一方、まだリースのオンバランス化の改訂が行われていない日本企業においてはむしろリースを活用する割合が増えてきているようですので、もし日本基準においてもリース会計が改訂されたとしても一概に日本もIFRS導入地域と同様の動きを取るとは言い切れません。しかし、やはりいずれにもしても追い風にはならない公算が大きいため、リース業界の各社にとってはこれまでの戦略を見直すきっかけになるかもしれません。
リース会計の改訂により大企業を中心にリース契約に対する考え方、姿勢には変化が訪れるかもしれませんが、資金に余裕のない中小企業や、資金調達の方法が限定的なベンチャー企業等ではかわらず重要な取引として残っていくことは間違いないでしょう。
※なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、いずれの団体等の見解を代表するものではありません。