会計のこと

のれんの償却と非償却、減損について

のれんの償却/非償却/減損

 

2019年1月14日の経営財務No.3391読んでいたら、のれんの減損額についての記事があったので今日はのれんについて。

 

まず、各会計基準による取扱いの違い(償却/非償却/減損)についておさらいしたいと思います。

 

J_GAAP(日本基準)

日本基準では20年以内でのれんの効果が及ぶ期間にわたり、定額法などの合理的な方法により償却します。

のれんの効果が及ぶ期間というのは、当該のれんの発生するM&A等において、その投資額が回収できる期間とするのが一般的です。

したがって経営者が算出した利益計画で投資額が回収し終わる期間がのれんの償却期間となります。

ただし、日本の会計基準でものれんの減損を計上する会社が多くあるように、当初立てた計画通りにいくことの方が少ない気がします。

そのため監査法人による監査では、期末ののれんの計上額が妥当であるかどうかについては慎重に検証しています。

正直これだけ先の読みづらい世界経済の中で、精度の高い予算をたてて経営していくのは一筋縄ではいかないどころの話じゃありません

なので、のれんの減損が発生してしまうのはやむを得ないというのが個人的な印象です。

一方で、そもそも高精度の予算が算出できないということを口実に、のれんの償却期間に経営者の恣意性を紛れ込ませる、ということが容易にできてしまうような印象もあります。

監査する側が利益計画の妥当性を検証するなんていうことは、経営者のそれ以上に難しいですし、実際にどこまで検証できているのかはなはだ疑問です。

そんなわけでのれんの監査は真面目にやろうとするとめちゃくちゃ大変ですし、とことんやったつもりでも、他の監査手続きに比べて抜け穴が出来やすい分野でもあります。

 

IFRS&US_GAAP(米国基準)

IFRS&US GAAPではのれんは償却せず、減損のみ実施します。

ただ最近になってIASB(国際会計基準審議会)で、のれんの償却の導入が議論されているなんて話もあるので、今後はどうなるかわかりません。

ちなみにその要因としては、減損計上のタイミングの適時性だったり、評価の妥当性が問題視されているようです。

同様にFASB(米財務会計基準審議会)でも協議されています。日経新聞にこんな記事があったので参考までに。https://www.nikkei.com/article/DGKKZO36925190V21C18A0DTA000/

 

というワケで、IFRSやUS GAAPを採用している企業ではより大きな減損リスクを抱えていることになります。

つまり、償却されないこということはより多額の減損を計上するリスクが高まるというわけです(J-GAAPでの減損リスクが小さいということではありませんが)。

 

経営財務の該当の記事の一文には

「のれん」の減損は、企業買収に失敗したことを意味するといわれている

とまで書かれていることからもわかるように、経営者はできる限り減損しない方向でなんとかしようというインセンティブが働くわけです。

もちろん日本基準でもないわけではないですが、より強く作用しやすくなります。

(のれんの計上額は)米主要500社では341兆円に達する(上記、日本経済新聞記事より)

ので、定期償却が導入されれば、各企業の財務諸表への影響は相当大きなものになると思います。

が、リースのIFRS16号等、かなり大きな影響を与える会計基準の変更が導入されていることを鑑みれば、のれんの償却/非償却についてもそう遠くない時期に変更される日が来るかもしれません。

 

 

のれんの償却/非償却の論拠

そもそもの話として、のれんを償却する立場と償却しない立場、それぞれの論拠をおさらいします。

 

のれん償却派

ざっとまとめると、

①のれんの価値が永続すると考えることは一般的に困難である。

②のれんの実態が超過収益力であるとすると、仮に買収企業の収益力(買収した時ののれん)が買収後も維持されているのであれば、それは超過収益力が永続しているのではなく、日々の営業活動を通じて自己創設のれんが発生していることで収益力を維持していると考えられ、有償取得したのれんは時の経過とともに減価して自己創設のれんと入れ替わっているため、有償取得したのれんの減価分は損益計算書に反映すべきである。

収益と費用の対応の観点からものれんは償却すべき資産である。

 

②がちょっとわかりづらいかもしれませんが、買収時ののれんが仮に価値が変わらずに続いているとしても、それはその後の企業の努力によって保たれているのであって、それは本来計上できない「自己創設のれん」を計上していることになる、ということです。

 

のれん非償却派

こちらもまとめると

①のれんを規則償却する場合、償却期間・償却パターンを経済実態に即して適切に決定し運用することは非常に難しく結果的に恣意的になりやすいため、定期的に厳格な減損テストを行う方が、経済実態を財務諸表に適切に表すことができる。

 

J-GAAPで言えば、「償却期間20年以内」で、どのような方法(「定額法またはその他合理的な方法」)のいずれにも恣意性が発生してしまうということですね。

どちらの言い分もそれなりの合理性がある気がしますが、実務的な観点を考慮すると私は償却派です。詳細は以下のまとめました

 

最後に

どちらが正しくどちらが間違っているというものではないのが、こののれんの償却/非償却の大きな問題点の1つなわけですが、個人的には一定期間で償却する方が良いと思っています。

上述しましたが、結局、非償却で減損のみにしてしまうと恣意性が介在してしまうリスクが大きいからです。

非償却の論拠となる厳格な減損テストが本当に毎期適切に行えるのであれば、非償却でもいいと思いますが、減損テストの恣意性は、償却年数や償却期間の決定の際の恣意性のレベルよりはるかに高いです。

そして減損計上した際の財務諸表への数値のインパクトは非常に大きいため、何とか減損しないように、という経営者サイドの都合が色濃く出やすいところでもあります(と思ったら翌期になって経営状態がいい年に、すんなり減損を計上する方向性で動き始めるといった利益操作的な一面が見えるときもあります)。

また、非償却派が主張する厳密な減損テストも実質的にしっかり運用できているとは言い難いというが現実ではないでしょうか。

 

さらに個人的な見解を言えば、現状のJ-GAAPの20年以内というのも長すぎると思うので10年以内で十分な気がしています。

20年間の利益予測なんて誰にもできないですし、20年後の世界経済なんてどうなっているか全く予想もつきません。

予想できると言っている人がいれば、おそらくその人は嘘つきか、タイムスリップしてきた人のどちらかでしょう。

20年程前から徐々にインターネットが普及し、この20年間の変化は誰もが知るところですが、この間安定的な経営をし続けてきている企業などあるでしょうか。

そしてこれからの20年はこれまで以上に激動の歴史をたどることになるのではないでしょうか。

 

そういうわけで、IFRSやUS-GAAPがのれんを償却する方に向かうのは非常に喜ばしいことだと思いますし、思い切って償却年数も短めに設定してくれるといいななんて思ったりしています。

 

 



※なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、いずれの団体等の見解を代表するものではありません。 



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