連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い
本日は在外子会社がIFRSやUS GAAPを採用している場合の、連結財務諸表上の取り扱いについてです。
原則的には、連結財務諸表を作成する場合、
同一環境下で行われた同一の性質の取引等について、親会社及び子会社が採用する会計方針は、原則として統一しなければならない
企業会計基準第22 号「連結財務諸表に関する会計基準」 第17項
とされています。
ただし、当面の取り扱いとして、在外子会社がIFRSやUS GAAPを採用している場合にはそのまま連結決算手続上利用することができると定めれています(実務対応報告第 18 号 )。
ただし、その場合にあっても以下の5つの項目については会計処理を修正する必要があります(重要性が乏しい場合を除く)。
在外子会社の会計処理の修正ポイント5つ
(1) のれんの償却
日本の会計基準(J-GAAP)では、のれんを20年以内で効果が及ぶ期間にわたって、定額法などの合理的な方法により償却しなければなりませんが、IFRSやUS GAAPではのれんは償却せず、減損のみ実施します。したがって、のれんの償却分だけBS及びPLにてGAAP差異が生じてしまいます。これは重要性が乏しい場合を除き必ず調整し、日本基準に合わせる必要があります。
のれんについて以前書いたエントリーについてはこちら
のれんの償却/非償却/減損
[設例 1] 在外子会社等において、のれんを償却していない場合には、連結決算手続上、その計上後 20 年以内の効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に 償却し、当該金額を当期の費用とするよう修正する。ただし、減損処理が行われたことにより、減損処理後の帳簿価額が規則的な償却を行った場合における金額を下回っている 場合には、連結決算手続上、修正は不要であるが、それ以降、減損処理後の帳簿価額に基づき規則的な償却を行い、修正する必要があることに留意する。
実務対応報告第 18 号
(2) 退職給付会計における数理計算上の差異の費用処理
日本の会計基準(J-GAAP)では退職給付会計において、数理計算上の差異を認識すると未償却分についてはその他の包括利益で認識した上で、純資産の部のその他の包括利益累計額に計上します。そして償却部分については費用処理を行い、組替調整(リサイクリング)するよう定められています(一括費用処理も認められています)。
一方、IFRSではその他の包括利益で即時認識し、以後の期間に当期純利益へのリサイクリングを行いません。当期純利益に影響がないわけです。
このように日本基準とIFRSでは会計処理が異なるため、重要性が乏しい場合を除き修正が必要となります。
なお、US GAAPでは数理計算上の差異について、回廊アプローチを採用しており、日本基準、IFRSとも違う会計処理方法を採用しています。ここでは詳細な説明は省略しますが、会計処理の結果、日本と違う会計処理となりその金額に重要性がある場合には修正が必要です。
[設例 2] 在外子会社等において、退職給付会計における数理計算上の差異(再測定)をその他の包括利益で認識し、その後費用処理を行わない場合には、連結決算手続上、当該金額を平均残存勤務期間以内の一定の年数で規則的に処理する方法(発生した期に全額を処理する方法を継続して採用することも含む。)により、当期の損益とするよう修正する。
実務対応報告第 18 号
(3) 研究開発費の支出時費用処理
日本の会計基準(J-GAAP)では、原則として研究開発費は即時費用処理するよう定められています(ただし、企業結合により取得した研究開発についてはこの限りではありません)。
一方、IFRSやUS GAAPでは日本基準とは異なり、内部で利用するためのソフトウェアにかかる研究開発にかかる費用等、研究開発費を資産計上することがあります。
したがって、ここでもGAAP差異が生じるため、会計処理の調整が必要となります。
[設例 3] 在外子会社等において、「研究開発費等に係る会計基準」の対象となる研究開発費に該当する支出を資産に計上している場合には、連結決算手続上、当該金額を支出時の費用と するよう修正する。
実務対応報告第 18 号
(4) 投資不動産の時価評価及び固定資産の再評価
現状、日本の会計基準(J-GAAP)では投資不動産の評価は原価モデルが採用されており、原則的に保有後に時価評価(公正価値評価)を行うことはありません。一方、IFRS(IAS40)では、投資不動産の事後測定(取得後の評価)は、公正価値モデル(要は時価評価)か原価モデル(要は時価評価しない)の選択適用となっています。
したがって、日本では時価評価しない投資不動産について、IFRSでは時価評価を行うことがあるため、この処理によって差異が生じた場合には日本基準に整合するよう調整する必要があります。
[設例 4-1] [設例 4-2] 在外子会社等において、投資不動産を時価評価している場合又は固定資産を再評価している場合には、連結決算手続上、取得原価を基礎として、正規の減価償却によって算定された減価償却費(減損処理を行う必要がある場合には、当該減損損失を含む。)を計上するよう修正する。
実務対応報告第 18 号
(5) 資本性金融商品の公正価値の事後的な変動をその他の包括利益に表示する選択をしている場合の組替調整
ここまでの4つは以前から適用されていたものですが、この5つ目は2018年に実務対応報告第 18 号が改正されたことにより追加されました。これはIFRS9(金融商品)が、2018年1月1日以降に開始する事業年度より適用されたことに伴い改正されたものです。
詳しくはこちら☟のエントリーで述べていますが、IFRS9において、FVTOCIに分類された金融資産は、その評価損益や売却損益は純損益として認識しません(その他の包括利益として認識する)。
IFRS第9号「金融商品」FVTOCIについて
IFRS第9号 金融資産の分類
日本の会計基準(J-GAAP)では金融商品の評価損益や売却損益は最終的に必ず純損益として認識するため、ここで差異が生じることとなります。
したがって、これまでの4つと同様、金額的重要性が乏しい場合を除き調整する必要が生じます。
[設例 5] 在外子会社等において、資本性金融商品の公正価値の事後的な変動をその他の包括利益に表示する選択をしている場合には、当該資本性金融商品の売却を行ったときに、連結 決算手続上、取得原価と売却価額との差額を当期の損益として計上するよう修正する。ま た、企業会計基準第 10 号「金融商品に関する会計基準」の定め又は国際会計基準第 39 号 「金融商品:認識及び測定」の定め3に従って減損処理の検討を行い、減損処理が必要と 判断される場合には、連結決算手続上、評価差額を当期の損失として計上するよう修正する。
実務対応報告第 18 号
補足-IFRS16の取扱い-
以前から、このトピックについては書こうと思っていたのですが、今回、IFRS16(リース)の取扱いを明記するため、実務対応報告第 18 号が更新されました(US-GAAPも同様。ASC Topic842。)。
結論から書くと、2019年の改正では修正事項は追加されませんでした。
IFRS9が2019年1月1日以後開始する年次報告期間から適用されたことにより(詳細はこちら☟)、リースの取扱いについて、日本基準とIFRS(及びUS-GAAP)にて相違が生じたわけですが、考え方に乖離はないということでそのまま利用することができることが明記されました。
IFRS第16号「リース」
また日本でもIFRSやUS GAAPを足並みをそろえるため、リースに関する会計基準の見直しが行われています。そう遠くないうちに、間違いなく変更されると思いますので、IFRS16を導入している日本の企業の動向をチェックしておくと良いかもしれません。
※なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、いずれの団体等の見解を代表するものではありません。