減価償却のGAAP差異
減価償却のGAAP差異
このように書くとあたかも日本基準とIFRSで耐用年数や償却方法の考え方が異なるかのように見受けられるかもしれません。
両基準の本質に大きな差はありません。
しかしながら、実務的に見ると両者に差が生じてしまいます。
以下、確認してみましょう。
減価償却の主な論点
減価償却に関する主な論点が2つあります。
それが
耐用年数
減価償却方法
です。
日本基準とIFRSでどのように耐用年数と償却方法を決定するか、それぞれ確認したうえで、両者の違いを見てみましょう。
日本基準
耐用年数について
日本基準では耐用年数について、実務指針に以下のように記されています。
耐用年数は、対象となる「資産」の材質・構造・用途等のほか、使用上の環境、技術の革新、経済事情の変化による陳腐化の危険の程度、その他当該企業の特殊的条件も考慮して、各企業が自己の「資産」につき、経済的使用可能予測期間を見積もって自主的に決定すべきである。
(監査・保証実務委員会実務指針第81号13項)
耐用年数及び残存価額に関しては、本来であれば各企業が独自の状況を考慮して自主的に決定すべきものである。したがって、資産を取得する際には、原則として適切な耐用年数及び残存価額を見積もり、当該見積もりに従って毎期規則的に減価償却を実施することが必要である。
(監査・保証実務委員会実務指針第81号23項)
ここからわかるように、原則として各社は経済的実体に即した耐用年数を各資産ごとに定めるよう規定されています。
しかしながら、
多くの企業が法人税法に定めらえた耐用年数を用いており、また同様に残存価額の設定についても、多くの企業が法人税法の規定に従っている現状である。このような事業に鑑み、法人税法に規定する普通償却限度額(耐用年数の短縮による場合及び通常の使用時間を超えて使用する場合の増加償却額を含む。以下、同じ。)を正規の減価償却費として処理する場合においては、企業の状況に照らし、耐用年数又は残存価額に不合理と認められる事情のない限り、当面、監査上妥当なものとして取り扱うことができる。
(監査・保証実務委員会実務指針第81号24項)
このように税法に乗っ取った会計処理が実務慣行として定着していることを理由に、税法に準拠した耐用年数を使用することが会計上認められています。
実務的には楽でいいですが、国際間比較という点では問題があるようにも思えます。
余談ですが、EBITDAが企業間比較で用いられる理由の1つに、減価償却の各国の取扱いの違いによる影響を排除する目的があります。
減価償却方法について
減価償却方法についても同様に、実務指針に以下のように規定されています。
減価償却方法に関して、多くの企業において法人税法の規定に従うことが実務慣行として定着していることから、法人税法に対して、企業会計に係る法令等と同等の性格を認め、税制改正に合わせた種々の選択肢とその場合の監査上の取扱いを定めている。
(監査・保証実務委員会実務指針第81号34項)
つまり日本基準においては、各企業が独自の状況に応じて実態に合った耐用年数や償却方法を選択して適用すべきであるとしながらも、実務上は「税法」に依拠した処理が認められているわけです。
企業においては、税法に依拠することで会計と税務で異なる処理を行う必要がなくなり余計な実務負担が減ることから「税法」に依拠した処理を行っている企業がほとんどとなっています。
IFRS
IFRSではIAS16号「有形固定資産」に
資産が将来企業によって費消されると予測されるパターンを反映する、減価償却方法や耐用年数を使用すること
(IAS16号)
と定められています。
ちゃんと経済的実体に合った減価償却方法や耐用年数を使用しましょうね、ということですね。
IFRSは世界各国で採用されている会計基準であるため、各国の税法等を考慮した処理を認めるわけにはいきません。
したがって、日本企業においても日本基準からIFRSへと会計基準を変更する会社においては単純に税法に依拠するのではなく、「資産が将来企業によって費消されると予測されるパターンを反映する、減価償却方法や耐用年数を使用すること」が求められるわけです。
日本のIFRS採用企業
定率法から定額法へ
前回、日本のIFRS採用企業の多くがすべての資産の償却方法を「定額法」としていることを述べました。
IFRS採用企業では日本の税法通りの償却方法や耐用年数を単純に当てはめれば良いわけではないことがご理解頂けたかと思いますが、であるとするとIFRS採用企業は「定率法」を採用する場合には、それが「資産が将来企業によって費消されると予測されるパターンを反映」していることを論理的に説明することが求められます。
しかしながら実際にそれを証明することは難しく、「定額法」の方が実際の消費予測パターンに適合しているため、「定額法」を採用している、というわけです。
IFRS採用の前(準備段階)において「定率法」から」「定額法」に変更している企業も少なくないようです。
税法の耐用年数を使えないのか
IFRS採用企業が日本の税法の耐用年数を使えるかどうか、残念ながらそれは各企業によるとしか言えません。
例えば保有する固定資産が少なく金額的重要性がない会社や、経済的実体に即した耐用年数と税法の耐用年数に大きな差がなく、仮にあったとしてもその差が小さく、それぞれで計算した償却費の差額に金額的重要性がない場合には可能かもしれません。
いずれにしても詳細な検討を行い、監査法人と合意しておくことが必要でしょう。
これらの検討は会計上、ひいては経営上重要なインパクトを持つ可能性がありますので早い段階で行うことが推奨されます。
※なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、いずれの団体等の見解を代表するものではありません。