昨今の粉飾決算や会計監査についての所感
「これから勝てる税理士・会計士」
週刊エコノミストの2022年2月22日号が「これから勝てる税理士・会計士」という特集を組んでいます。ただ、これを読んでもこれから勝てる税理士・会計士になれるかといったらそんなことは決してなく、内容は最近の粉飾決算や会計監査にまつわる問題点に触れているところが多くを占めています。
その中でも元公認会計士である某氏の記事の見出しと冒頭は目を引きます(P.87)。
監査のプロなら粉飾を見破れ
私に言わせれば今の監査法人は監査なんてしていない
今時の若者の言葉を借りて言うなら「おまいう」なわけですが、元であっても公認会計士であった者がこういうことを発信しているのはいかがなものかと思わずにはいられません。
職業的懐疑心の欠如
この手の話の中でよくある話で、「回転期間分析や確認手続きをしっかりやっていれば」という非常に局所的な話に収斂しがちですが、そんな話はもう何十年も前から言われている話であり、その間粉飾決算を看過し続けてきたわけですから、これを言ったところで何も解決しないのは自明でしょう。
もちろんそういった視点で監査制度自体が外部から批判されることには何の疑問もなく、むしろそういった批判があるからこそ監査業界は向上していくものと思われます。
しかしながら、元公認会計士や今は監査をしていない公認会計士が、十把一絡げに上記のような発言を繰り返すのは問題の本質を捉えていないように受け止められます。
いわば職業的懐疑心の欠如が問題である、とも言い換えられるような上述の論調ですが、職業的懐疑心が欠如してしまうような現在の監査制度そのものに対しメスを入れない限り、粉飾を見逃してしまう昨今の監査にまつわる問題はなくならないと思います。
「職業的懐疑心をしっかり発揮せよ」というような抽象的かつ単一の施策では解決できない複雑な問題ではありますが、決算の妥当性を検証するのと粉飾を看破するのとではベクトルが異なることを前提に、前者だけでリソース不足を招いている現状を解消することが先決でしょう。
不正看破のベクトルとリソース不足
そのためにはリソース確保と監査チーム体制の見直しが必要と思われます。昨今のBIG4の報酬値上げや不採算クライアントの放出は、そういった施策の一部とも受け取れます。ただし、監査法人を離れる会計士が増えており(現在、監査を行なっているのは公認会計士の約半数のみ)、優秀な会計士を監査の土俵に留める、あるいは、カムバックしてもらえるような施策や、会計士でない人材の活用もより一層必要かもしれません。
インセンティブのねじれ
さらに言えば監査対象の企業から報酬を受け取る、という本質的な問題(インセンティブのねじれ)を棚上げし続ける限り問題は解決されないようにも思えます。インセンティブのねじれの問題について、法体制としての整備はされてきていますが、これが100%十分に機能しているかといえば(私の印象では)そんなことはなく、現場における監査チーム対会社の関係を含めたねじれを解消する必要性は今もって変わっていないように感じられます。
最後に
とある会計誌によれば、監査業界において「規制を強化し続ける」という道の向こうが行き止まりであるということが明らかになりつつあり、これからは「どのようにバランスを取っていくのか」を考える方に舵を切るようだ、というのは耳寄りな情報かもしれません。
※なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、いずれの団体等の見解を代表するものではありません。