日本基準(J-GAAP)のセールアンドリースバックの会計処理
今回はセールアンドリースバック取引のGAAP差異を確認します。
日本基準では、セールアンドリースバック取引がファイナンスリースとして認識される場合、以下のような仕訳を起票することが定められています。
簿記1級や会計士試験のリースで必ず学ぶあれです。
(企業会計基準適用指針第16号49)
J-GAAPのセールアンドリースバックの仕訳
長期前払費用(長期前受収益)は即時に損益を認識せず、繰延べて、減価償却費に含めて償却します
実質的に金融取引として行われるセールアンドリースバックにおいて、売却時に発生する損益を一時に認識してしまうと、取引を一体としてみたときに会計事象を正確に表現できなくなってしまいます。
ここでは売却損益が繰り延べられ(長期前払費用 / 長期前受収益)、毎期減価償却費に含めて損益として認識することになっていますが、これはセールアンドリースバックは実質的に金融取引としての性格が強いと考えられているからです。
わざわざややこしい仕訳になっているのはそのためです。
ちなみに、この処理を行うことにより、セールアンドリースバックを実施しても毎期計上される減価償却費は同額になります(所有権移転外等により、耐用年数がリース実施前と変更になる場合にはこの限りではないため注意が必要)。
面倒な仕訳ではありますが、日本基準では上記の仕訳しか示されておらずその他の会計処理(下記で説明するIFRSで計上する仕訳等)を行おうと思っても、おそらく監査人の合意を得るのは難しいでしょう。
上述しましたが、IFRSの会計処理と整合するようにリース会計基準を改正すべきだと個人的には思います。
では続いてIFRSでの仕訳を見てみましょう。
IFRSのセールアンドリースバックの会計処理
IFRSでは、IFRS15収益認識基準の登場により、日本基準とは違う仕訳を計上するのが一般的になっています。
感覚的にIFRSで計上する仕訳の方がしっくりきます。
IFRSのセールアンドリースバックの仕訳
支配権が移転していない(IFRS15)ので、経済的実体を反映した仕訳になる
このように、IFRSではセールアンドリースバックは「資産を担保とした借入の実施」と経済的実体はかわらないものと考えることができます。
※ここで説明した仕訳がすべてのセールアンドリースバックに当てはまるとは限らないため、契約内容や経済的実体を適切に評価・判断したうえで会計処理を行うようご注意ください。
特に所有権移転外の場合には、「資産を担保として借入の実施」とは言えない場合が多いものと思われます。なぜなら支配権が売却先に移転する可能性が見込まれるためです。
セールアンドリースバックは保有している資産を使用し続けることを前提に、当該資産を用いて資金調達を行う、というのが一般的であり、このような場合、上記のような金融取引としての仕訳になります。しかし、IFRS15号の判定により対象資産を売却したと見なされる部分がある場合、当該部分については売却損益を認識することになります。
税務上のセールアンドリースバックの会計処理
税務上のセールアンドリースバックの仕訳
税務上もIFRSと同様に考えれば問題ありません。
以下参照。
No.5702 リース取引についての取扱いの概要(平成20年4月1日以後契約分)
[平成31年4月1日現在法令等]
法人が平成20年4月1日以後に締結する契約に係る賃貸借(リース)取引のうち一定のもの(以下「法人税法上のリース取引」といいます。)については、その取引の目的となる資産(以下「リース資産」といいます。)の賃貸人から賃借人への引渡し(以下「リース譲渡」といいます。)の時にそのリース資産の売買があったものとされます。
また、法人が譲受人から譲渡人に対する法人税法上のリース取引による賃貸を条件に資産の売買(いわゆるセール・アンド・リースバック取引)を行った場合において、その資産の種類、その売買及び賃貸に至るまでの事情などに照らし、これら一連の取引が実質的に金銭の貸借であると認められるときは、その売買はなかったものとされ、かつ、その譲受人(賃貸人)からその譲渡人(賃借人)に対する金銭の貸付けがあったものとされます。
なお、よくよく考えればわかりますが、日本基準を採用してもIFRSを採用しても、所有権移転の実質的に資金の借入のような取引の場合、損益に与える影響はありません。
したがって、取引の概要としては上記の借入金の仕訳のように考えるのがシンプルで分かりやすいと思いますが、いずれにしても税務上の調整は不要となります(減価償却費を限度額以上に計上する等の処理を行っていないことを前提としています)。
最後に
いかがだったでしょうか?
実質的に資金の借り入れと考えられるセールアンドリースバックについてのGAAP差異を考えてきました。
(基本的にセールアンドリースを行う場合、所有権移転の契約形態になっていることが多いと思われますが、当然ケースバイケースになりますので、契約条件を確認し取引全体から概要をつかむことが重要です)
上述したように、このようなケースでは採用する会計基準によりBS計上額や勘定科目は変わる可能性がありますが、損益に与えるインパクトはありません。
実務において、セールアンドリースバックを行う場合、(特にIFRS採用している企業の)経理サイドではなにかと業務負担が増えることが想定されますが、上記のポイントを押さえておくだけでも心理的負担は軽減できるのでは、と思い最後に記載させてもらいました。
※なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、いずれの団体等の見解を代表するものではありません。