規制資産・規制負債とは
公開草案「規制資産及び規制負債」
規制資産、規制負債という用語、概念があるのをご存知でしょうか。
2021年1月28日にIASB(国際会計基準審議会)が公開草案「規制資産及び規制負債」を公表しました。
この公開草案は現在(2021年3月時点)も引き続きコメント募っている期間であり、基準化されるかどうか、また、されるとした場合の基準化の時期等、未定ですが、これまでの基準にはない考え方や概念であるため、確認しておきたいと思います。
ASBJ(企業会計基準委員会)のホームぺージにて日本語訳された公開草案を見る事ができます。
規制資産・規制負債の定義
まずは、規制資産、規制負債の定義について確認します。
規制資産
すでに供給した財又はサービスに対する合計許容報酬の一部が将来の収益に含められることにより、将来の規制料金の決定にあたり金額を加算するという、強制可能な現在の権利
公開草案「規制資産及び規制負債」
規制負債
すでに認識した収益が、将来において供給する財又はサービスに対する合計許容報酬の一部を提供する金額を含んでいることにより、将来の規制料金の決定にあたり金額を減算するという、強制可能な現在の義務
公開草案「規制資産及び規制負債」
それぞれの定義は公開草案に記載されたものですが、少々わかりづらいように思います。
設例を元に理解を深めたいところですが、ASBJのHPにて公開されている設例は少々難解なため、経営財務No.3497にて紹介されている設例を参照し、見ていきたいと思います。
規制資産の設例
経営財務No.3497に記載された設例では、
X1年に提供された財・サービスの規制料金は、見積もられた原価100に基づいていたが、X1年の実際の原価は120であった。規制上の取り組みにより、X2年に提供される財・サービスの規制料金を決定する際に、原価の回収不足分20を増額する権利がある。
経営財務No.3497
とあります。
これをかみ砕くと、発生した原価と同額の収益を請求することができる契約(合計許容報酬)であり、当初の見積もり原価は100であったため、X1年には収益100を請求しました。しかし実際には原価が想定の100を20上回って120となったため、超過分の20は翌X2年度に請求する権利を有している状態、ということです。
これを従来のIFRS15号に当てはめると、X1年に計上する仕訳(仕訳は本ブログで書き起こしたもの。以下同じ。)は
従来の仕訳パターン X1年度
AR 100 / 収益 100
費用 120 / AP 120
従来の仕訳パターン X2年度
であり、翌X2年に計上する仕訳は
AR 20 / 収益 20
となります。
しかし、X2年に請求する権利のある20はあくまでX1年に生じた原価に対するものであり、費用収益対応の関係からみれば超過分の20の売上もX1年に計上すべきです。
したがってこれを当該公開草案によって仕訳計上した時のX1年は
公開草案の仕訳パターン X1年度
AR 100 / 収益 100
費用 120 / AP 120
規制資産 20 / 規制収益 20
となります。
公開草案の仕訳パターン X1年度
そして翌X2年には、
規制収益 20 / 収益 20
規制費用 20 / 規制資産20
このような仕訳が計上されます。
この公開草案にしたがって処理された一連の取引を要約した損益計算書が以下のように記されています。
経営財務No.3497
最後に
規制資産、規制負債の名の通り、なにがしかの規制のもと料金規制が存する場合の事象をより正確に会計で表現しようとする草案であり、公開草案時点では、規制資産、規制負債が「財務報告に関する概念フレームワーク」の中の資産、負債の定義を満たすのか、あるいは、特定の条件下において、規制収益、規制費用を包括利益に表示するか否か、等についてコメントを募集している段階です。
今後どのような進展を見せるのかは、現時点ではわかりませんが、これが基準化された場合には一部の業界や企業においては大きな影響を与えることになりかねないため、注視していく必要がありそうです。
※なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、いずれの団体等の見解を代表するものではありません。