新リース会計基準の概要
新リース会計基準について、改めて整理しておこうという趣旨です。
整理していく上で加筆修正していきますが、それを踏まえ、理解向上の一助になれば幸いです。
また、ここから特に断りがない限り借手側の処理を記載しています。
※本記事は下記の新リース会計基準を参照して記載しています。
なお、貸手側の会計処理については借手側に比べて変更点が少なく、影響も限定的なためここでは一旦割愛します。改めて追記するかもしれませんが、下記のEY JAPANの記事がわかりやすくまとまっています。
新リース会計基準とは?
そもそも、新リース会計基準とは、というところから。
IFRSでは日本基準よりも随分と先行してリース基準が改訂されており、IFRS第16号「リース」が2019年から適用が開始されています。
その変更に関する最も大きな論点は
借手に原則としてすべてのリースのオンバランスが求められること
と言えます。
その他にも細かい変更はあるのでそれは後述したいと思いますが、今回の最大の論点は原則としてあらゆるリース取引がオンバランス(BS計上)されることに尽きるでしょう。
ただし、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区分がなくなったわけではありません。いずれの場合にもBS計上するという整理であり、新リース会計基準ではそれぞれ下記のように定義されています。
ファイナンス・リース
「ファイナンス・リース」とは、契約に定められた期間の中途において当該契約を解除することができないリース又はこれに準ずるリースで、借手が、原資産からもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ、かつ、当該原資産の使用に伴って生じるコストを実質的に負担することとなるリースをいう。
オペレーティング・リース
「オペレーティング・リース」とは、ファイナンス・リース以外のリースをいう。
新リース会計基準の適用はいつから?
新リース会計基準は2027年4月1日以後に開始する年度の期首から適用となります。早期適用も可能で、2025年4月1日以後開始する年度の期首から本会計基準を適用することもできます。
新リース会計基準が公表されたのは2024年9月で適用まで2年半の期間を設けていますが、これは新リース会計基準の影響が企業によっては影響度合いがかなり大きく、また会計処理を行うにあたって相当な負担がかかることを考慮されたものといわれています。
主な変更点
リースの定義及び範囲
リースの定義は下記のとおり変更されています。
現行の基準のリースの定義
「リース取引」とは、特定の物件の所有者たる貸手(レッサー)が、当該物件の借手(レッシー)に対し、合意された期間(以下「リース期間」という。)にわたりこれを使用収益する権利を与え、借手は、合意された使用料(以下「リース料」という。)を貸手に支払う取引
新基準のリースの定義
「リース」とは、原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部分
このようにして比較すると、具体的にどのように変わったのかわかりづらいかもしれませんが、実際のところ定義自体に大きな変更はないようです。
ただし新基準では「リースの識別」というプロセスが組み込まれ、これまでよりも慎重、かつ、丁寧な判断が求められます。特に注意が必要なのは契約上の名目として「リース」や「賃貸借」といった文言が含まれない場合においても、実態として「リース」と判断される取引があればオンバランスしなければいけない可能性がある点です。
したがって新リース会計基準適用までにそういった可能性がある取引について洗いなおす必要があるでしょう。
リースを構成する部分とリースを構成しない部分の区分
また「リースの識別」においては、「リースを構成する部分とリースを構成しない部分の区分 」に分けるというプロセスも存しており、リースを含む契約について
原則として、リースを構成する部分とリースを構成しない部分とに分けて会計処理を行う
必要があります。具体的には、機械設備等に付随する保守サービス等がリースを構成しない部分に該当し、こういったサービスについてはリースに含めて会計処理を行うことはできないので、仮に現状含めて処理している場合には修正を行う必要が出てきます。
保守サービス等の付随する「サービス」は「リース」に含めることができない
リース期間
借手は、借手のリース期間について、借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、次の(1)及び(2)の両方の期間を加えて決定する。
(1) 借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間
(2) 借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間
リースにかかる延長オプション、解約オプションがある場合にはそれぞれ行使するか否かを実態に即して判断し、リース期間に反映する必要があります。
借手のみがリースを解約する権利を有している場合、当該権利は借手が利用可能なオ
プションとして、借手は借手のリース期間を決定するにあたってこれを考慮する。貸手
のみがリースを解約する権利を有している場合、当該期間は、借手の解約不能期間に含
まれる。
借手にだけ解約オプションが付与されている場合には、上述のとおり行使するか否かを実態に即して判断しリース期間を決定する必要がある一方、貸手だけが解約オプションを有している場合には解約不能期間としてリース期間に含める必要があります。
したがって、貸手の契約オプション行使によりリース期間が変更された場合にはリース負債計上額の見直しを行う必要があります。
借手は、リースの契約条件の変更が生じていない場合で、延長オプションの行使等に より借手の解約不能期間に変更が生じた結果、借手のリース期間を変更するときには、 リース負債の計上額の見直しを行う。
使用権資産およびリース負債の計上
このようにして「リースの識別」「リース期間」のプロセスで識別された対象の「リース」及び「リース期間」に基づいて「使用権資産」「リース負債」を計上します。
「使用権資産」「リース負債」の計上額
「リース負債」は未払いのリース料から利息分を控除した金額を現在価値に割戻し計上します。
借手は、リース負債の計上額を算定するにあたって、原則として、リース開始日において未払である借手のリース料からこれに含まれている利息相当額の合理的な見積額を控除し、現在価値により算定する方法による。
「使用権資産」は上記のリース負債に、リース開始日までに支払ったリース料や付随費用を加算し、インセンティブを控除した金額を計上します。
当該リース負債にリース開始日までに支払った借手のリース料、付随費用及び資産除去債務に対応する除去費用を加算し、受け取ったリース・インセンティブを控除した額により使用権資産を計上する。
使用権資産の償却方法
原資産の所有権が借手に移転すると認められるか否かで異なります。
所有権が移転している場合には、自ら所有していた場合に適用する減価償却方法と同一の方法で償却する必要がありますが、一方、そうでない場合には定額法等の減価償却方法の中から企業の実態に応じたものを選択適用します。
なお、所有権移転していているかどうかは、ファイナンス・リースかオペレーティング・リースかの判断と概ね相似していると思われます。

原資産の所有権が借手に移転すると認められるリース
契約上の諸条件に照らして原資産の所有権が借手に移転すると認められるリースに係る使用権資産の減価償却費は、原資産を自ら所有していたと仮定した場合に適用する減価償却方法と同一の方法により算定する。この場合の耐用年数は、経済的使用可能予測期間とし、残存価額は合理的な見積額とする
契約上の諸条件に照らして原資産の所有権が借手に移転すると認められるリース以外のリース
契約上の諸条件に照らして原資産の所有権が借手に移転すると認められるリース以外のリースに係る使用権資産の減価償却費は、定額法等の減価償却方法の中から企業の実態に応じたものを選択適用した方法により算定し、原資産を自ら所有していたと仮定した場合に適用する減価償却方法と同一の方法により減価償却費を算定する必要はない。この場合、原則として、借手のリース期間を耐用年数とし、残存価額をゼロとする
その他
ここまでで新リース会計基準の概要について大まかにはつかめたのではないでしょうか。細かく見ていくと気になる論点はまだまだありますが、あとは各々の企業実態に応じて詳しく見ていけばいいかな、という印象です。
ここから先は必要に応じて加筆修正したいと思います。
短期リース・少額リース
短期リースと少額リースは特例として、オンバランスしないという例外的な取り扱いが認められています。各企業においてはリースに関する手続きを簡素化できるため、短期リース・少額リースについては積極的にこの規定を取り入れたいところかと思います。
では、短期リース・少額リースとして取り扱えるのは具体的にどのようなリースなのか、それぞれ定義を確認します。
ちなみに、オンバランスしない、例外処理時には下記のように処理します。
例外規定:借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上
短期リースとは
「短期リース」とは、リース開始日において、借手のリース期間が12か月以内であり、購入オプションを含まないリースをいう。
短期リースとはリース期間が12か月以内ものであり、購入オプションを含まない、という点がポイントです。
少額リース
(1) 重要性が乏しい減価償却資産について、購入時に費用処理する方法が採用されている合で、借手のリース料が当該基準額以下のリース
ただし、その基準額は当該企業が減価償却資産の処理について採用している基準額より利息相当額だけ高めに設定することができる。また、この基準額は、通常取引される単位ごとに適用し、リース契約に複数の単位の原資産が含まれる場合、当該契約に含まれる原資産の単位ごとに適用することができ。
(2) 次の①又は②を満たすリース
- 企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリースで、かつ、リース契約1件当たりの金額に重要性が乏しいリース この場合、1つのリース契約に科目の異なる有形固定資産又は無形固定資産が含まれているときは、異なる科目ごとに、その合計金額により判定することができる。
- 新品時の原資産の価値が少額であるリース この場合、リース1件ごとにこの方法を適用するか否かを選択できる。
ざっくり言ってしまうと「金額的に重要性がないリース」は少額リースとして特例として取り扱えますよ、と定義されています。
ちなみに、旧リース基準でも少額リースの規定はあり、「リース料総額が300万円以下のリース取引」と定義されていましたが、新リース会計基準では具体的な金額の記載はなくなりました。
これは旧基準の300万円という水準は新基準でも引きつづき認められることに加えて、IFRS第16号適用企業が適用内容を変更せずとも新リース基準を満たすことができるように配慮されたものです。
詳細は割愛しますが、これらの例外規定はある程度弾力性があり、実務負担を減らす配慮がなされているため、適用できるものについては検討の上、積極的に適用したいところです。
※なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、いずれの団体等の見解を代表するものではありません。