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会計上の見積りの開示に関する会計基準

会計上の見積りの開示に関する会計基準

会計上の見積りの開示に関する会計基準

会計上の見積りの開示に関する会計基準が公表されてから早くも1年が経過しようといています。

公表日以降、早期適用が認められてきた当基準ですが、この2021年3月31日以降強制適用開始となります。

多くの企業では開示の拡充に向けて準備が進められ、あるいは、早期適用を既に開始したところかと思いますが、ここで改めて「会計上の見積りの開示に関する会計基準」について確認したいと思います。

 

以下、順を追って確認しますが、当該会計基準の要点について確認されたい方は、「会計上の見積りの開示に当たってのフロー」の章まで飛ばしてご覧ください。

 

会計上の見積りの開示に関する会計基準の背景

そもそも会計上の見積りの開示に関する会計基準が導入された経緯について、IAS(国際会計基準)第1号「財務諸表の表示」の第125項において開示が求められている「見積りの不確実性の発生要因」の情報の有用性が財務諸表利用者にとって高いものであり、これに相当する情報の開示が日本でも求められたことが背景としてあります。

 

したがって、当該「会計上の見積りの開示に関する会計基準」はIAS第1号125項の定めを参考に規定されています。

 

では、具体的な内容についてみていきます。

 

会計上の見積りとは

会計上の見積りの定義については、以下のように定義されています。

「会計上の見積り」とは、資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出することをいう

(企業会計基準第31号3項)

 

定義について違和感等はないかと思いますが、「会計上の見積り」は実務的に言えば固定資産の減損の金額や、貸倒引当金の金額の算出において、市場価格等の明確な外部情報がない中で会社の判断に基づいた計算のことを言います。

 

会計上の見積りの開示の目的

会計上の見積りの開示は

当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスク(有利となる場合及び不利となる場合の双方が含まれる。以下同じ。)がある項目における会計上の見積りの内容について、財務諸表利用者の理解に資する情報を開示すること

(企業会計基準第31号4項)

を目的として設定されています。

 

これは、会計上の見積りの方法や、見積りの基礎となる情報が財務諸表作成時にどの程度入手可能か、各企業によってさまざまであり、見積りの金額の不確実性がそれによって左右されること、しかしながら、見積りの結果である財務諸表計上額だけを見ても、見積りの方法や基礎となる情報については、財務諸表利用にはわからないためです。

 

会計上の見積りの開示に当たってのフロー

会計上の見積りの開示を行うにあたっては①開示する項目の識別をし、②認識した項目について注記を行うこととなります。

 

開示する項目の識別

開示する項目は翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目(企業会計基準第31号5項)を識別します。

ここで識別される項目は通常当年度に計上した資産及び負債ですが、当年度に計上した収益及び費用、あるいは、当年度の財務諸表に計上しなかった負債を識別することは妨げられていません(企業会計基準第31号23項)。

 

重要な影響であるかどうかの判断は、影響の金額的大きさ及びその発生可能性を総合的に勘案して判断します。

 

ここで識別する項目の注意点として、直近の市場価格によって時価評価するような資産や負債の市場価格の変動については、会計上の見積りに起因するものではないため、項目を識別するにあたっては考慮しません(企業会計基準第31号24項)。

また、識別する項目数については、企業の規模や事業の複雑性によって異なると想定されますが、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目を識別することとされているため、比較的少数になるであろうことが言及されています(企業会計基準第31号25項)。

 

注記事項

見積りの内容を表す項目名

会計上の見積りの開示は独立の注記項目とし、識別した項目が複数ある場合には項目名は単一の注記として記載します。

識別した項目については、会計上の見積りの内容を表す項目名を注記することが求められます(企業会計基準第31号6項)。

 

このあたりは非常にわかりづらい日本語で表現されているので、具体的にどのような記載をすればイメージが付きにくいところです。

2020年3月期では早期適用した事例もないため、参考にできる開示例もないのが現状ですが、IFRSを任意適用している企業の開示が参考になるものと思われます。

 

金額と理解に資する情報

上記で認識した項目について、項目名とあわせて次の項目を注記することが求められています。

(1)当年度の財務諸表に計上した金額

(2)会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報

(企業会計基準第31号7項)

 

これらの内容について、具体的な記載方法は示されていないため、開示目的に照らして各企業が判断する必要があります(定量的情報もしくは定性的情報、又はこれらの組み合わせ)。

なお、他の注記に記載すべき内容が含まれている場合には、これを参照する形で記載に代えることができます。

 

会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報

「会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報」については上述のとおり、開示目的に照らして各企業が判断する必要がありますが、例示として以下の3項目が基準にあります。

(1)当年度の財務諸表に計上した金額の算出方法

(2)当年度の財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な家庭

(3)翌年度の財務諸表に与える影響

(企業会計基準第31号8項)

 

これらはあくまで例であって、必須項目でもなければチェックリストとして機能するものでもない点には注意が必要です。

 

適用時期

「会計上の見積りの開示に関する会計基準」は2021年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用します(企業会計基準第31号10項)

 

2020年3月31日から早期適用が可能となっていますが、経営財務No.3477によると2020年3月期では早期適用の事例はなかったとのことです。

 

比較情報の取扱い

なお、適用初年度においては、表示方法の変更として扱われます。

したがって、本来であれば企業会計基準第24号第14項の定めにより、比較情報(過去の財務数値)は新たな表示方法によって組替を行う必要があります。

財務諸表の表示方法を変更した場合には、原則として表示する過去の財務諸表について、新たな表示方法に従い財務諸表の組替えを行う

会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準
企業会計基準第24号第14項

しかし、これを遡及適用する場合、当該時点に入手可能であった情報と事後的に入手した情報を客観的に区別することが難しいこと、また多数の子会社を有している企業においては実務上煩雑であることから、比較情報へ記載しないことが認められています。(企業会計基準第31号11項/34項)。

 



※なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、いずれの団体等の見解を代表するものではありません。 



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