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公認会計士試験のバランス調整についての所感

公認会計士試験のバランス調整についての所感

公認会計士試験のバランス調整について

公認会計士・監査審査会(CPAAOB)が2025年6月に「公認会計士試験のバランス調整について」として、公認会計士試験の見直しを行うことを公表しました。

ざっくりと言ってしまえば、短答式の合格率を増加させ、論文式の合格率を減らす、という内容です。

短答式の合格率は2026年の試験から合格率を増加させ、論文式は2026年から段階的に3,4年かけて合格率を減らしていくそうです。

 

調整の背景は…

調整を行う背景について、詳細は上記のリンク先を参照いただければと思いますが、chatgptが簡潔にまとめると以下になります。

公認会計士試験の現状と課題

  • 受験者数は2万人超、最終合格率は令和6年で7.4%と低水準。

  • 短答式試験:合格率は一桁台〜10%台前半と非常に低く、配点の偏りもあり、体系的な知識があっても不合格となるケースが多い。

  • 論文式試験:合格率は30%台後半と高めで、近年は記述量も減少し、十分な思考力・応用力がなくても合格できる可能性がある。

試験の役割と歪み

  • 短答式:基礎知識の理解度を測る試験だが、難化により本来の役割を果たしにくい。

  • 論文式:応用力や判断力を測る試験だが、難易度が相対的に低くなっている。

  • 他資格と比べても、一次(マーク式)での合格率が低く、二次(記述式)で高いという逆転現象が見られる。

バランス調整の必要性

  • 現状では試験制度の役割分担に歪みが生じ、合格者の資質や能力確保に懸念がある。

  • 新試験導入から約20年が経ち、監査の品質管理強化、IT活用、サステナビリティ開示対応など、求められる能力は拡大している。

  • より的確に受験者の能力を判定するため、出題内容や運営方法の「バランス調整」が必要とされる。


要するに、短答が難しすぎ・論文が易しすぎという歪みがあり、受験者増加や社会的要請も踏まえて試験制度の見直しが求められている、という内容です。

 

調整内容への所感

何を今さら、という感もありますが、今さらでも是正できるものはした方がいいでしょう。短答の合格率が顕著に低すぎ、短答さえ突破できればかなりの確率で論文にも合格できる、という状況は健全ではなかったと思います。これは受験する側としての感覚ですが、合格者を迎え入れる企業側(主には大手の監査法人)としても、人材の知識・能力を担保する、という視点においても、このような状況は望ましいものではなかったと思います。

特に短答式試験は、CPAAOBの資料内にも記載があるとおり1問あたりの配点が高くなっており、その分、運的な要素の比重も高くなります。それでも合格率がある程度高い試験であればまだ容認できそうですが、1回1回の試験の合格率が10%を切るため、1問が命取りになる状況は試験の目的を鑑みると健全とは言えなさそうです。

これはあくまで予想ですが、この試験制度が導入された2006年からこれまで短答式の合格率は多少の増減はあっても基本的に低水準で推移してきたのは、論文式の採点に係る負担を減らす、ということが最大の目的であったのではないかと推察します。実際、合格発表までの2~3か月の間に数千人の回答を採点するのは容易ではないはずですから一定の合理性はあったと思いますが、やはりここでこのような見直しが行われるということは、試験の本質にそぐわなかったということだと思います。これに関しては採点のみを行う試験委員を設けたり、CBT(Computer Based Testing)試験の導入などを検討し、対応を図るようです。

短答式と論文式

短答式と論文式では、当人の実力(知識や思考力、対応力)の違いはやはり論文式で顕著に表れると思います。実務にあたった際の仕事の出来不出来についても、どちらかと言えば、明らかに論文式に比例する、という感覚もあります(あくまで所感ですが)ので、その観点からみても、短答式の合格率を増加させ、論文式の合格率を減らす、というは理にかなっていると思います。

ITや英語について

上記の他、ITや英語の能力を試験に組み込むことが検討されているようですが、この点については私としては明確に反対です。

公認会計士として実務にあたる際にITや英語の能力が不可欠になってくるのは確かにその通りですが、あくまでそれはリテラシーの範囲にとどめるべきで試験で問うべきではないと思います。

理由はいくつかありますが、

・公認会計士はあくまで会計・監査の専門家であり、ITや英語の専門家ではない

・必ずしもITや英語が必要な業務ばかりではない

・ITや英語の能力については合格後にそれぞれが勉強し身に着けていけばいい(キャッチアップできない者は社会摂理の中で淘汰されればいい)

・ITや英語は幼少期からの教育環境の違いでその能力に大きな差異があり、試験の本質とは違うところで差が生じる

等があります。可能な限り門戸は広く開かれているべきであると思います。

補足

なお短答式の試験は下記のように見直しが入るそうです。

私が受験した2012年は、計算がある科目(財務会計・管理会計)は時間内に全問解き終わらない、という前提で試験に臨んでいた記憶がありますが、そういったこともこれで解消されるのでしょうか。



※なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、いずれの団体等の見解を代表するものではありません。 



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