非財務情報の重要性
週刊東洋経済の2022年1月22日号は「企業価値の新常識」の特集をしており、公認会計士はもちろん、会計に携わる人にとって非常に興味深くタイムリーな誌面となっています。
AppleとSonyの差
冒頭で非財務情報の重要性に触れ、その中でも特に重要とされる気候情報と人的資本について詳しく解説されています。具体的には、アップルとソニーを取り上げその違いについて説明しており、アップルとソニーの株主資本はそれぞれ約7兆円と大きな差はないものの、時価総額を見るとアップルは330兆円、ソニーは18兆円と大きな隔たりが生じており、この隔たりこそが「非財務資本」であると説いています。
そして、これまでの「非財務資本」は過去の業績で予測されてきましたが、過去の業績が現在の時価総額を説明する力はどんどん弱くなってきていることもわかってきています。
では「非財務資本」を形成するものは何なのか?
「TCFD」と「人的資本」
近年注目されているのが、「TCFD」と「人的資本」の2つです。
TCFDとは気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)の略称。
当ブログでも過去に触れてきてましたが、とりわけ「TCFD」の注目度は高く、2022年4月の再編後のプライム市場ではTCFDが提言する要求水準の開示が必要となります。「ガバナス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4項目が全産業共通の開示項目されています。
「TCFD」対応が重要なのは、単純にROEさえ高ければ投資対象として優れている、という時代が終わりを迎えつつあるためです。影響力の大きい年金運用企業やファンドなどの機関投資家は投資対象の「TCFD」対応状況をより注視するようになり、これまで以上の改善要求や、場合によってはアクティビストの介入なども増えてくる可能性があります。
また近年「人的資本」が重要視されるようになったのは、「人的資本」こそがイノベーションの源泉であると気づき始めたからと言われています。日本においては雇用を守ることが重視され、ある意味雇用される側にとって都合の良い環境のように見られてきましたが、画一的で硬直的な採用方法や賃金制度に縛られ、「人的資本」への投資が諸先進国の中で芳しくない状況が続いてきました。これが日本でイノベーションが起きない要因の1つとされています。
「人的資本」に関する開示については、社会的な要請は高まりつつあるものの、「TCFD」とは異なり特定の開示基準は現状ないため、対応の難しさがあります。
企業の対応
非財務情報への対応は各社待った無しの状況になりつつあると思います。2008年のJ-SOX開始の対応に追われた状況にも通じるものがあるかもしれません。有象無象の開示コンサルが出てくる可能性もありますが、コンサルに依頼して解決できればまだ良いかもしれません。現在の日本においては非財務情報の開示を十分に行えているのはほんのひと握りの企業だけであり、ほとんど知見が蓄積されていないのが現状です。「人的資本」への投資が十分ではなかった日本の企業が、「人的資本」への投資をこれから手厚く行い、企業価値の向上に立ち向かっていけるのか、注目したいところです。
※なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、いずれの団体等の見解を代表するものではありません。