さて、今回もキャッシュ・フロー計算書のお話です。
前回解説したのはこちら。
キャッシュ・フロー計算書上のCMSの取り扱い
グループ会社が多数ある企業においては、CMS(Cash Management System/キャッシュ・マネジメント・システム)を導入しているところも多いかと思います。
CMSを導入している多くの会社で親会社・子会社問わず、「CMS借入金」や「CMS貸付金」、「CMS預り金」や「CMS預け金」をBSに計上しているものと思います。
そんな時、キャッシュ・フロー計算書上での取り扱いに迷われた方もいるのではないかと思い、今回ここで整理したいと思います。
BS計上する際のポイント
そもそもCMSでのキャッシュインやキャッシュアウトをBSに計上する際のポイントは利息の有無かと思います。CMSによるキャッシュインに対し、利息を支払うのであれば「CMS借入金」、利息がないのであれば「CMS預り金」として計上するのが合理的な処理になります。いずれの運用にするかは各企業グループが設定したルールや運用方針次第かと思いますが、毎期継続して処理することが重要です。
※補足
なお、CMSの性質として「借入」及び「貸付」として処理するのが一般的かと思われます。グループ内の資金融通であってもそれぞれ別の法人であるため、一般取引と同程度の利息の設定をしないと税務上寄付金として取り扱われるリスクが生じます。
一方一時的な資金のやりとりであり、利息の設定をしない場合には「預り金」「預け金」としての処理も容認されるものと思われます。
また、資金を親会社にプールするために各子会社から資金を集めるようなケースでは「借入金」ではなく「預り金」として計上し、市場金利に応じた支払利息を計上する取扱いもあります。
CF計上する際のポイント
キャッシュ・フロー計算書上どの区分に計上するか、についても上記のBS計上時と同様、その性質(すなわち利息の有無)にしたがって計上するのが妥当です。
つまり、利息を支払う「借入金」として考えるのであれば、「財務活動によるCF」として計上しますし、利息を支払わない「預り金」として処理するのであれば「営業活動によるCF」として計上します。後述する田辺三菱製薬株式会社の注記例を見ていただくとわかりやすいでしょう。
会計処理は原則として、その実態に基づいて計上するものですから、契約やルールを確認し、その取引に実態に基づいて会計処理を考えることが必要です。
適切な勘定科目を設定
ここで注意が必要なのは、CMSに関する取引を仕訳計上する際には、「CMS預り金」や「CMS預け金」、「CMS借入金」や「CMS貸付金」といったその取引の本質にしたがって適切な勘定科目を使用することが望まれます。
すべてのCMSに関するキャッシュイン・アウトをたとえば「CMS」といった1つの勘定科目で処理してしまうと、BS計上時もすべてネット(相殺後)した金額で計上されてしまいますし、キャッシュ・フロー計算書上、営業活動によるものか、財務活動、あるいは投資活動によるキャッシュイン・アウトなのかわからなくなり、集計に余計な時間を要することとなってしまいます。
効率的な経理業務の実現は、事前の充分な準備に掛かっていますのでCMS導入時、あるいは、キャッシュ・フロー計算書の作成の必要が生じた時点で早めに論点整理に着手しましょう。
参考資料
企業の開示情報を見ると参考になるものがあります。田辺三菱製薬株式会社では、過去の有価証券報告書、四半期報告書では以下のような開示を行っておりました。
田辺三菱製薬株式会社 第5期 第1四半期四半期報告書
キャッシュ・フロー計算書に関する注記ですが非常にわかりやすく書かれています。CMSがその性質に基づいて、それぞれ取り扱われ開示されていることがわかります。ちなみに田辺三菱製薬株式会社では2016年4月1日以降の決算よりIFRSでの決算となっており、それ以降は上記のような開示はされなくなったようです。
また、現在は完全子会社化により上場しておりませんが、東京建物不動産販売株式会社では過去の有価証券報告書のキャッシュ・フロー計算書上で以下のような開示をしています。
東京建物不動産販売株式会社 第81期 有価証券報告書
このように直接的にCMSでの借入、貸付によるキャッシュ・フローであることがわかるように記載しているケースもあるようです。このような場合にも適切に勘定科目を設定していないと集計が面倒になりかねませんので注意が必要でしょう。
終わりに
キャッシュ・フロー計算書の作成にあたっては、システムを利用したり、エクセルで作成したりと会社によってさまざまかと思います。エクセルで作成している場合はもちろん、システムを利用している場合であってもキャッシュ・フロー計算書の仕組みを正確に理解していないとミスしてしまうリスクがあるのがキャッシュ・フロー計算書のこわいところです。
1つ1つ注意深く対応していきましょう。
※なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、いずれの団体等の見解を代表するものではありません。