履行義務に取引価格を配分
収益認識基準では、以下の5ステップに従って収益認識を行います。
ステップ1 契約の識別
ステップ2 履行義務の識別
ステップ3 取引価格の算定
ステップ4 履行義務に取引価格を配分
ステップ5 履行義務充足による収益の認識
今回は、ステップ4の「取引価格の算定」についてまとめます。
履行義務に取引価格を配分するとは?
取引価格を算定したら、当該算定価格を履行義務に配分します。
取引価格の算定についてはこちら。
履行義務に取引価格を配分するとはどういうことでしょうか?
まずは基準を確認してみます。
それぞれの履行義務(あるいは別個の財又はサービス)に対する取引価格の配分は、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額を描写するように行う。
財又はサービスの独立販売価格の比率に基づき、契約において識別したそれぞれの履行義務に取引価格を配分する。
企業会計基準第 29 号 第65,66項
なんだかわかりにくい表現です(収益認識基準はIFRS15を元に作成されているため、通常の基準以上に読みにくい、わかりにくいと言われています)。
簡単に言い換えてみましょう。
取引相手から受け取る対価の額を、それぞれの財(サービス)の独立販売価格の比率で割って、割り振りましょう、ということです。
まだわかりづらいかもしれませんので、さらにかみ砕いて事例で示してみます。
事例①
製品Aと当該製品Aに対する3年間の保守サービスを包括的に契約。
取引先から受け取る金額は10,000円
これまではこの10,000円をまとめて即時計上することも可能でしたが、収益認識基準ではNGとなります。
つまり、保守契約については3年間にわたって収益認識しなければいけません。
そのために、この10,000円を製品と保守サービスに配分する必要があります。
ここで、独立販売価格が登場します。
独立販売価格とは、その名のとおり、それ単体で販売した場合の価格です。
今回は製品Aと3年間の保守サービスをセットで10,000円にて販売していますが、これをそれぞれ単体で販売した場合、いくらなのかがポイントです。
単体で販売した場合、製品Aが9,000円、3年間の保守サービスが3,000円だとしましょう。
この比率に基づいて10,000円を配分しますから、製品Aにいくら配分するかを算定するための計算式は以下のようになります。
製品Aへの配分価格算定の計算式
10,000円 / (9,000円+3,000円) × 9,000円 = 7,500円
製品Bへの配分価格算定の計算式
10,000円 / (9,000円+3,000円) × 3,000円 = 2,500円
値引きがある場合
上記の例のように、財とサービスを一括して販売する場合に独立販売価格の合計よりも安く販売、つまり値引きして販売するケースは往々にしてあることが想定されます。
このような場合、上記の例のように独立販売価格の比率によって値引き額を配分します。
ただし以下の3つの要件を満たす場合はこの限りではありません。
契約における別個の財又はサービス(あるいは別個の財又はサービスの束)のそれぞれを、通常、単独で販売していること
当該別個の財又はサービスのうちの一部を束にしたものについても、通常、それぞれの束に含まれる財又はサービスの独立販売価格から値引きして販売していること
(2)における財又はサービスの束のそれぞれに対する値引きが、当該契約の値引きとほぼ同額であり、それぞれの束に含まれる財又はサービスを評価することにより、当該契約の値引き全体がどの履行義務に対するものかについて観察可能な証拠があること
企業会計基準第 29 号 第71項
こちらも少し理解しにくいので事例を示して解説します。
事例②
製品Bは単価100円にて、1個から単独で販売しています。
そして通常、製品Bだけを100個まとめて受注した場合、10,000円のところを9,000円にて販売しています。
これとは別に、製品Bの保守サービス3年分を別途3,000円で追加することが可能です。
この時、製品Bを100個と保守サービス3年分を合わせて受注し、13,000円のところ12,000円で販売したとします。
当該契約では1,000円値引きしているため原則的な計算方法によると、当該1,000円を製品Bと保守サービスに配分することになりますが、上記第71項の例外に従い製品B100個分からのみ値引きすることになります。
補足
独立販売価格については、契約における取引開始日の価格を使用します。
また、独立販売価格を直接観察できない場合には、入手できるすべての情報を利用して価格を見積もることが要求されています。
そして、当該見積もり方法は首尾一貫して適用しなければいけません。
※なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、いずれの団体等の見解を代表するものではありません。