会計のこと

取締役の報酬等としての株式無償交付の会計処理

取締役の報酬等としての株式無償交付の会計処理

改正会社法の取締役に対する株式無償交付について

2019年に会社法が改正(2019年12月成立・公布、2021年3月1日施行予定)され、取締役に対し報酬等として株式を無償で交付することが可能となりました。

これまで無償でのストックオプション(新株予約権)の付与は行われてきましたが、今回、株式の無償交付についても同様に実施可能になった、ということです。

 

近年、日本においても欧米の流れを追う形で、取締役に対する業績連動報酬、株式報酬の割合が高まってきており、今回の改正会社法による株式の無償交付も遅かれ早かれ多くの企業で導入されていくことと思われます。

 

事前交付・事後交付とは

そこで、今日は取締役に対する株式の無償交付の会計処理を確認したいと思います。

が、その前に一点確認すべき点として、「事前交付」「事後交付」、という表現がこの後たびたび出てくるので、その意味を押さえておきましょう。

 

株式報酬をする場合、一定期間の勤務や一定の業績目標等の制限が付されますが、その制限が達成される前に株式を交付することを事前交付、達成後に株式を交付することを事後交付と言います。

事前交付の場合、目標到達までは譲渡制限されることとなり、目標到達できなかった場合には、会社が無償で当該株式を取得することとなります。

 

取締役に対する株式無償交付の会計処理について

株式の無償交付については、①事前交付か事後交付か、及び、②新株発行か自己株式か、という論点があり2×2=4パターンを押さえておく必要があります。

それでは早速、それぞれケースの仕訳を確認しましょう。

 

事前交付型の場合

まずは事前交付型で、新株発行する場合の処理から確認します。

 

新株発行の場合(事前交付)

割当時

事前交付で新株発行の場合、株式を割り当てた時点では仕訳は行いません。

借方)仕訳なし  貸方)仕訳なし

 

費用認識

譲渡制限が解除されるまでの間は、以下の仕訳を計上します。

借方)報酬費用 ××  貸方) 資本金        ××

–                                       (資本準備金) ××

貸方にかっこ書きで資本準備金と表記したのは新株発行による増資実施と同様、払い込み金額の1/2までは資本準備金とすることも可能なためです。

 

譲渡制限解除時

目標到達等により譲渡制限が解除された場合にも、割当時と同様仕訳は行いません。

借方)仕訳なし  貸方)仕訳なし

 

譲渡制限未達時

譲渡制限をクリアできずに、会社が無償で当該株式を取得する場合、自己株式の数のみの増加として処理することとされていますので、こちらも仕訳は行いません。

借方)仕訳なし  貸方)仕訳なし

 

自己株式処分の場合(事前交付)

続いて事前交付型で、自己株式を処分する場合の処理から確認します。

 

割当時

自己株式を処分する場合には、新株発行時とは違い仕訳を計上することとなります。この仕訳は以下の通りであり、通常の自己株式の処分と同様の仕訳です。

この時の計上額は自己株式の簿価であり、貸借に差額は生じません。

借方)その他資本剰余金 ××  貸方)自己株式 ××

 

費用認識

譲渡制限が解除されるまでの間、自己株式処分の場合は割当時との整合性の観点で貸方はその他資本剰余金となります。

以下、仕訳です。

借方)報酬費用 ××  貸方)その他資本剰余金 ××

 

譲渡制限解除時

目標到達等により譲渡制限が解除された場合、新株発行時と同様仕訳は行いません。

借方)仕訳なし  貸方)仕訳なし

 

譲渡制限未達時

譲渡制限をクリアできずに、会社が無償で当該株式を取得する場合、処分した自己株式を再度取得するため、以下の仕訳を計上します。

この時の取得単価は、割当時と同額になるので、割当時の仕訳を取り消すイメージとなります。

借方)自己株式 ××  貸方)その他資本剰余金 ××

 

事前交付型の場合

新株発行の場合(事後交付)

次に事後交付型で、新株発行する場合の処理から確認します。

 

費用認識

株式無償交付の決定により交付するまでの間、以下の費用計上の仕訳を行います。

ここで、事前交付とは異なり、勘定科目が新設されました。

借方)報酬費用 ××  貸方)株式引受権 ××

 

割当時

目標達成により株式を交付する際には、以下の仕訳を行います。

借方)株式引受権 ××  貸方)資本金         ××

                 (資本準備金)    ××

   

自株式処分の場合(事後交付)

最後に事後交付型で、自己株式処分する場合の処理から確認します。

 

費用認識

株式無償交付の決定により交付するまでの間、新株発行(事後交付)の場合と同様、以下の費用計上の仕訳を行います。

借方)報酬費用 ××  貸方)株式引受権 ××

 

割当時

目標達成により株式を交付する際、今度は新株発行(事後交付)の場合と異なり、以下の仕訳を行います。

貸借それぞれにその他資本剰余金を記載しているのは、株式引受権と自己株式それぞれの計上額の差額をその他資本剰余金として処理するためです。

借方)                           貸方)

株式引受権            ××    自己株式          ××

(その他資本剰余金) ××   (その他資本剰余金) ××           

以上、改正会社法による取締役に対する株式無償交付の際の会計処理になります。

なお、上記は一般的な場合を想定して記載していますので、上記当てはまらない例外もあることはご承知おきください。



※なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、いずれの団体等の見解を代表するものではありません。 



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