研究開発費の取扱いとGAAP差異【前編】
研究開発費の取扱いとGAAP差異
今回は研究開発費に関する日本基準と国際会計基準(IFRS/IAS)の取扱い、及び、それぞれのGAAP差異について確認したいと思います。
日本基準の研究開発費の取扱い
ではまず日本基準の研究開発費の取扱いについて確認します。
原則は費用処理
日本基準では研究開発費はすべて発生時に費用として処理しなければならないと定められています(研究開発費等に係る会計基準第3項)。
研究開発費は一般的に原価性がないため通常は一般管理費(SGA)として計上します。
ただし、製造現場において研究・開発が行われ一括して製造原価に含めて計上している場合があるため、研究開発費を製造原価に算入することが認められています。
この時なんでもかんでも製造原価に入れられるわけでは決してないので、範囲については注意が必要です(その場合には、製造原価に含めない)。
・研究開発費は原則として費用処理
・製造原価に含めることも容認されている
では続いてどこまでが研究開発費の範囲に含まれるのか、定義をおさらいしておきましょう。
日本基準における「研究」「開発」の定義
研究開発費等に係る会計基準において「研究」及び「開発」は以下のように定義されています。
研究とは、新しい知識の発見を目的とした計画的な調査及び探究をいう。
開発とは、新しい製品・サービス・生産方法(以下、「製品等」という。)についての計画若しくは設計又は既存の製品等を著しく改良するための計画若しくは設計として、研究の成果その他の知識を具体化することをいう。
ここで注意が必要なのが、研究・開発には製品やサービスの「著しい改良」を含んでいる点で、逆にいえば「著しいと判断できない改良」は研究・開発には含みません。
「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」では、研究・開発の典型例を以下の9項目、そして、研究・開発に含まれない典型例として以下の10項目を挙げています。
研究・開発の典型例
研究・開発の典型例については以下の通りです。
① 従来にはない製品、サービスに関する発想を導き出すための調査・探究
② 新しい知識の調査・探究の結果を受け、製品化、業務化等を行うための活動
③ 従来の製品に比較して著しい違いを作り出す製造方法の具体化
④ 従来と異なる原材料の使用方法又は部品の製造方法の具体化
⑤ 既存の製品、部品に係る従来と異なる使用方法の具体化
⑥ 工具、治具、金型等について、従来と異なる使用方法の具体化
⑦ 新製品の試作品の設計・製作及び実験
⑧ 商業生産化するために行うパイロットプラントの設計、建設等の計画
⑨ 取得した特許を基にして販売可能な製品を製造するための技術的活動
研究・開発に含まれれない典型例
研究・開発に含まれない典型例については以下の通りです。
① 製品を量産化するための試作
② 品質管理活動や完成品の製品検査に関する活動
③ 仕損品の手直し、再加工など
④ 製品の品質改良、製造工程における改善活動
⑤ 既存製品の不具合などの修正に係る設計変更及び仕様変更
⑥ 客先の要望等による設計変更や仕様変更
⑦ 通常の製造工程の維持活動
⑧ 機械設備の移転や製造ラインの変更
⑨ 特許権や実用新案権の出願などの費用
⑩ 外国などからの技術導入により製品を製造することに関する活動
費用処理の例外
研究開発費は原則費用処理であることを上述しましたが、例外として、企業結合等により受け入れた会社に仕掛中の研究開発があり、これを資産価値があるという前提で企業を取得した場合には、他の資産と同様に当該資産も時価評価し資産計上します。
国際会計基準(IFRS/IAS)の研究開発費の取扱い
続いて国際会計基準(IFRS/IAS)の研究開発費の取扱いについて確認します。
原則は費用処理/一部資産計上あり
原則として費用処理する点については日本基準と同様ですが、特定の条件下おいて「開発」にかかる支出は「無形資産」として資産計上することが求められています(「研究」にかかる支出はすべからく費用処理です)。
では、どのような場合に資産計上するのか確認しましょう。
「開発費」の資産計上要件
IAS第38号57項では下記の6要件をあげており、これをすべて立証できる場合に資産として認識します。
・使用または売却できるように無形資産を完成させることの技術上の実行可能性
・無形資産を完成させ、さらにそれを使用または売却するという企業の意思・意図
・無形資産を使用、または、売却できる能力
・無形資産が実現可能性の高い将来の経済的便益を創出する方法
・無形資産の開発を完成させ、さらにそれを使用または売却するために必要となる、適切な技術上、財務上およびその他の資源の利用可能性
・開発期間中の無形資産に起因する支出を、信頼性をもって測定できる能力
なぜ、「研究」に関する支出は費用で「開発」に関する支出だけが一部資産計上できるか、については「識別可能性」と「将来の経済的便益」の立証可能性の違いにあるとされています。
つまり「研究」に関しては資産として識別することと、将来どれくらいの便益をもたらすのか、ということが立証できない、ということです。
一方「開発」に関しては上述した6つの要件を立証できれば、「識別可能性」と「将来の経済的便益」を立証できる、ということです。
ちなみに、「識別可能性」と「将来の経済的便益」が立証可能ということは「認識」及び「測定」が可能であることを意味します。
なお、上記の6要件についてはあくまで「開発」に係るものであり、内部で創出される、ブランド、題字、出版権、顧客名簿等は対象外である点注意が必要です。
IASでの「開発費」の定義
ではここでIASにて定められている「開発」の定義をおさらいします。
「開発」とは、
生産または使用開始以前における、新規のまたは大幅に改良された材料・装置・製品・工程・システムまたはサービスによる生産のための計画または設計に対する研究成果または他の知識の応用
を言います。
IASの開発費の具体例
具体的には以下のような例がIAS第38号59項に記載されています。
・生産または使用以前の、試作品および模型に関する設計、建設およびテスト
・新規の技術を含む、工具・治具・鋳型および金型の設計
・事業上、清算を行うには十分な採算性のない規模での、実験工場の設計、建設及び操業
・新規のまたは改良された材料・装置・製品・工程・システムまたはサービスに関して選択した代替手法等についての設計、建設およびテスト
ここまで、研究開発費の取扱いについて日本基準とIFRSでの取り扱いについて確認しました。
日本基準と国際会計基準(IFRS/IAS)のGAAP差異まとめ
ここまで述べてきた内容をマトリクス表にするとこのようになります。
日本基準 | IFRS/IAS | ||
6要件充足〇 | 6要件充足× | ||
研究局面 | 費用 | 費用 | |
開発局面 | 費用 | 資産 | 費用 |
日本基準では研究開発費は(例外はありますが)すべて費用処理で共通していますが、国際会計基準では一部資産になるものがある点注意が必要です。
特にこれからIFRS導入を検討している企業において、研究開発費の金額が大きい場合にはその中から一部を切り出し資産化する調整が必要になる場合もあるため、早い段階で内容を確認することが求められると言えるでしょう。
※なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、いずれの団体等の見解を代表するものではありません。