引当金のGAAP差異
今回は引当金に関する日本基準とIFRSとのGAAP差異について確認したいと思います。
日本基準の引当金
日本基準で引当金と言えば、会計になじみのある方にはご存知のとおり、以下の4要件に基づいて処理します。
・将来の特定の費用または損失であること
・発生が当期以前の事象に起因すること
・高い発生可能性があること
・金額が合理的に見積り可能であること
企業会計原則注解 注18
上記の要件をすべて満たす場合には、引当金を計上しなければいけません。
計上してもいいよ、という規定ではなく、計上しなければならない、という点に注意が必要です。
日本基準で計上される一般的な引当金
いくつか紹介しておきたいと思います。
メジャーどころとしては
貸倒引当金
退職給付引当金
賞与引当金
修繕引当金
その他会社によっては
製品保証引当金
ポイント引当金
訴訟損失引当金
等を計上したりします(こちらに記載したのはあくまで一部です)。
IFRSの引当金
では続いてIFRSに基づく引当金について確認したいと思います。
IFRSの引当金の計上要件は、
・企業が過去の事象の結果として現在の債務(法的又は推定的)を有している。
・債務の決済のために経済的便益をもつ資源の流出が必要となる可能性が高い。
・債務の金額について信頼性をもって見積もることができる。
IAS第37号
以上の3要件となっています。
日本基準の要件 | IFRSの要件 |
・将来の特定の費用または損失であること | ・企業が過去の事象の結果として現在の債務(法的又は推定的)を有している。 |
・発生が当期以前の事象に起因すること | ・債務の決済のために経済的便益をもつ資源の流出が必要となる可能性が高い。 |
・高い発生可能性があること | ・債務の金額について信頼性をもって見積もることができる。 |
・金額が合理的に見積り可能であること | – |
日本基準とIFRSの違い
日本基準とIFRSを見比べてみると、ほとんど同じように見えますが大きくことなるのが、「現在の債務を有している」かどうか、という点です。
これが実務上どんな違いを生むでしょうか。
たとえば日本基準では上述した修繕引当金を計上しますが、IFRSでは修繕引当金は債務性を有していないため計上できません。
また貸倒引当金も債務性はありません(評価性引当金)が、IFRSでももちろん計上します。
債務性はないため負債性の引当金を対象としているIAS第37号の対象外ですが、貸倒引当金についてはIFRS第9号、IAS第39号に定められており、これにしたがって計上します。
アプローチの違いによるGAAP差異
この両会計基準による引当金の要件の違いは、両者の会計に対するアプローチの違いから生じていると考えられています。
すなわち、日本基準は収益費用アプローチを採用し、IFRSは資産負債アプローチを採用しているためです。
日本基準では収益費用アプローチを採用しているため、「将来の特定の費用または損失であること」という要件が盛り込まれており、一方IFRSは資産負債アプローチを採用しているため「現在の債務(法的又は推定的)を有している」という要件が盛り込まれています。
なお、このIFRSの要件は、IASBの概念フレームワーで規定されている「将来の特定の費用又は損失」の定義と整合するものとなっています。
※なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、いずれの団体等の見解を代表するものではありません。