その他の包括利益に対する税金費用の取扱いについて
その他の包括利益に対する税金費用の計上区分
経営財務No.3541やT&AmasterNo.916にも記事になっていますが、第472回企業会計基準委員会の概要が公表され、その他の包括利益に対する税金費用の取扱いについて方向性が示されました。
かなりニッチな領域の話ですが、その他の包括利益に対して課税された場合に、その税金費用を損益として計上して良いのか?という論点があり、これに関する方向性が今回明らかになりました。
具体的な事例として、例えば
連結納税制度の開始時又は加入時に、会計上その他の包括利益(又はその他の包括利益累計額)が計上されている資産及び負債に対して、税務上時価評価が行われ、課税所得計算に含まれる場合
があり、対象資産としてその他有価証券等が該当すると思われます。少しわかりづらいですが、要は会計上は損益として認識されず、その他の包括利益として計上される部分に対し課税が生じるケースです。このような場合、損益に計上するのではなく、その他の包括利益から控除する等して表示することが適切ではないか、という指摘です。
この点、発生源泉に応じて、損益、あるいは、その他の包括利益及び株主資本の各区部分に計上することを原則とし、例外として損益計上を認容する方向性が示されました。
上記のケースに対応するASBJの原文
原則:当期税金費用は、その発生源泉となる取引等に応じて、損益(税引前 当期純利益から控除)、その他の包括利益及び株主資本の各区分に計上する。
例外:発生源泉となる取引等がその他の包括利益又は株主資本として計上されており、当該取引等に関して一時差異が生じていることから、繰延税金資産又は繰延税金負債を計上していた場合、当該繰延税金資産又は繰延税金負債を、損益を相手勘定として取り崩すとともに、対応する当期税金費用についてもあわせて損益として計上することができる。
また、上記のような論点に加え、退職給付会計においても
掛金等の支出に伴って取り崩される退職給付に係る負債に含まれる、未認識数理計算上の差異に対応する部分に対応する税金費用が生じる場合
が、新たに認識されました。
掛金等の支出に伴って取り崩される退職給付に係る負債に未認識数理計算上の差異等に対応する部分が含まれているか否かを識別すること(含まれている場合には当該部分の算定)は困難と考えられており、つまりは対応する税金費用についても損益に係るものであるのか、あるいはその他の包括利益に係るものであるのかを識別することは難しいことがわかります。
このように税金費用の発生源泉となる取引等が、損益、その他の包括利益及び株主資本の各区分のうち、複数にまたがる場合で、かつ、その他の包括利益及び株主資本に対応する税金費用を算定するのが困難な場合には、損益計上できるという例外規定を認容する方向となりました。
同様に、今後も他の論点においても同じような議論が起きる可能性がありますが、上記のような例外規定が設けられるとのことです。
上記のケースに対応するASBJの原文
原則:当期税金費用は、その発生源泉となる取引等に応じて、損益(税引前当期純利益から控除)、その他の包括利益及び株主資本の各区分に計上する。
例外:その発生源泉となる取引等が、損益、その他の包括利益及び株主資本の各区分のうち複数の区分に計上されており、かつ、その他の包括利益及び株主資本に対応する当期税金費用を算定することが困難である場合には、当該取引等に係る当期税金費用を損益として計上することができる。
あまり見かけない論点であり、かつ、例外処理が認められているため実務上はあまり大きな問題になりにくいポイントと思われますが、こんな考え方もあるのだな、という認識を持っておくことは会計に携わる人であれば損はないかなと思います。
※なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、いずれの団体等の見解を代表するものではありません。