【IFRS9】FVTOCIという会計処理の背景
2021年後半の経営財務の連載コラムにて、興味深い記事があったので要約した上でご紹介したいと思います。
さて、会計に関して勉強する際、各々の会計処理や基準についての「結果」や「結論」だけを知ろうとするとなかなか理解が深まらず、記憶に定着しない、という経験をしたことも多いのではないでしょうか。一方で、その「結果」や「結論」がどのようにして決定されたのか、という「背景」を知ることでとたんに理解が深まりスッと頭に入った、という経験をされた方も多いかと思います。
だからこそどの会計基準においても必ず「結論の背景」が記載されています。
今回は、IFRS9において、なぜFVTOCIという会計処理の選択肢があるか、という背景についてまとめておきます。
「FVTOCI」とは、Financial assets at fair value through other comprehensive incomeの略で、金融商品の時価評価差額を「OCI(その他の包括利益)」として処理するものであり、FVTPLは時価評価額を「PL(損益)」として処理することを言います。
なぜFVTOCIという会計処理が登場したのか
IFRS9は金融商品に関する会計基準であり、その中で金融商品の分類に関する規定がまとめられています。
FVTPLだけが想定されていた
当初IFRS9の公開草案では、その保有目的に関わらず、すべてFVTPLでの会計処理を適用し、時価評価差額を損益として計上することを念頭に置いていました。
日本の持ち合い株
しかしながら、(今もそうですが)日本においては政策的な目的で株式の相互持合いがごくごく当たり前の慣行として行われていました。当然このような相互持合いによる株式は売却して利益を得ることだけを目的としておらず、基本的には中長期にわたって保有を続ける前提でどの企業も持ち合いを行っています。
このような日本独自の状況において、すべての株式をFVTPLにて損益認識することになると、企業の業績は持ち合い株式から生じる損益の影響で本来の各社の経営成績を歪めてしまうことになりかねません。
そこで、相互持合い株という日本独自の経済慣行を考慮し、任意で選択した株式についてはFVTPLを適用せずにFVTOCIで認識する、という選択肢が提案されました。
ちなみにFVTOCIは、日本の会計基準上の「その他有価証券」の括りに近いものですが、IFRS上ではFVTOCIとして計上された株式はリサイクリングが禁止されているため、日本のように売却時に損益として計上することができない、という違いがあります。リサイクリングが禁止される理由は含み損益を恣意的に実現させ、利益操作が容易に行えてしまうためと言われています。
配当金は損益として
なお「FVTPL」、「FVTOCI」、いずれの会計処理を選択した場合にも、受取配当金については損益として認識することが認められており、その背景として
「企業がそうした資本性金融商品を主として投資の価値の増加のためではなく契約に基づかない便益のために保有している場合には、企業の業績を示さない可能性があるとの主張に留意した。例えば、企業が特定の国で自らの製品を販売する場合に、そのような投資を保有する必要があることなどである。」
という内容がIFRS9に明記されました。
最後に
このように「FVTOCI」が選択肢として残された背景を知ることで、IFRS9「金融商品」における時価評価差額の処理の原則はあくまで「FVTPL」であり、日本特有の事情を考慮して提案された「FVTOCI」は例外的な選択肢であることがわかりました。
それを踏まえたうえで、金融商品の分類について知れば、より理解が深まるのではないでしょうか。
※参考情報
経営財務 No.3530/No.3532
※なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、いずれの団体等の見解を代表するものではありません。