【概念フレームワーク】有用な財務情報の質的特性
IASBが公表する「財務報告のための概念フレームワーク」は以下の順で構成されていますが、ここでは「有用な財務情報の質的特性」について紹介します。
「概念フレームワーク」の地位と目的
第1章 一般目的財務報告の目的
第2章 有用な財務情報の質的特性 ←本エントリーの対象
第3章 財務諸表と報告企業
第4章 財務諸表の構成要素
第5章 認識と認識の中止
第6章 測定
第7章 表示と開示
第8章 資本と資本維持の概念
質的特性とは?
まず、有用な財務情報の質的特性について説明します。
ここで言う質的特性とは、財務報告の目的である主要な利用者が報告企業への資源の提供に関する意思決定を行う上で、有用なその報告企業についての財務情報を提供するために、その財務情報が有しているべき特性のことを言います。
噛み砕いていうと、投資家などが意思決定を行う上で、企業の財務諸表などを見るわけですが、その財務諸表が開示している数値や情報が持っている「特性」を言います。
まだピンとこないかもしれませんが、「ふーん」てな感じで読み進めてもらえれば良いです。
質的特性の区分
「財務報告のための概念フレームワーク」では、質的特性を大きく2つに区分しています。
それが、
① 基本的な質的特性
② 補強的な質的特性
です。
基本的な質的特性
さらに、基本的な質的特性は以下の2つで構成されます。
① 目的適合性
② 忠実な表現
この2つは、有用な財務情報の必須の要素とされています。
つまり、目的適合性と忠実な表現のどちらも担保されていないと、財務情報として有用ではない、ということです。
基本的な質的特性① 目的適合性
目的適合性のある財務情報とは、利用者が行う意思決定に相違を生じさせるものであり、財務情報は「予測価値」、「確認価値」のいずれかあるいは両方を有する場合に意思決定に相違を生じさせるとしています。
予測価値とは、将来の結果を予測するために役立つ情報を有している場合に、予測価値があるとされており、
確認価値は、過去の評価に関するフィードバックを提供する場合に、確認価値があるとされています。
そしてこの予測価値と確認価値は、相反するものではなく、相互に関連するもので、予測価値を有しているものは確認価値も有している場合が多いとしています。
たとえば、ある企業の1事業年度の売上高は、その企業の将来の売上高の予測に役立つ予測価値を有し、過去に予測した売上高との比較において役立つ確認価値を有しています。
基本的な質的特性② 忠実な表現
概念フレームワークは、財務情報が有用であるためには、「表現しようとしている現象の実質を忠実に表現しなければならい」としています。
そして、忠実に表現するためには以下の3つの特性を有していなければいけません。
① 完全性
② 中立性
③ 無謬(むびゅう)性
完璧に忠実な表現は実質的に難しいとしても可能な限り、これらの特性を最大化することが目的であるとしています。
なお、無謬性とは聞きなれないかと思いますが、脱漏(モレ)や誤謬(誤り)がないことを指します。
※2010年の改定の際に削除された「慎重性」という表現が、2018年の改定時に再導入されました。忠実な表現の3つの特性のうちの1つである中立性は、この「慎重性」の行使によって支えられるものであるとしています。
補強的な質的特性
続いて補強的な質的特性ですが、こちらは以下の4つの要素で構成されています。
① 比較可能性
② 検証可能性
③ 適時性
④ 理解可能性
これらは必須の要素ではありませんが、財務情報の有用性を高める要素であり、これらの要素が多いほど有用性が高まります。
それでは各特性についてもう少し詳しく見ていきます。
補強的な質的特性① 比較可能性
比較可能性は、項目間の類似点と相違点を利用者が識別し、理解することを可能にする質的特性です。
どういうことかと言うと、投資したり融資したりする際に、ある企業の財務報告と別の企業の財務報告が比較ができたり、ある企業の現時点と過去の財務情報が比較ができる、という場合に比較可能性がある、と言えます。
当たり前のようですが、しっかりとしたルールがあり、企業がそれにのっとって財務報告を作成し、第3者がそれを検証して初めて比較可能性は担保されるものだったりします。
そういうわけで財務情報は、比較可能性があればあるほど、有用な情報となり得る、というわけです。
補強的な質的特性② 検証可能性
検証可能性とは、知識を有する独立した別々の観察者が、必ずしも完全な一致ではないにしても、特定の描写が忠実な表現であるという合意に達することができることであり、表現しようとする経済現象を忠実に表現していることを利用者に確認させるうえで役立つもの、です。
若干わかりづらい表現な感もありますが、要はある程度会計に精通している人が特定の財務情報についてチェックした時に、問題ないよね、っていう確認ができるかどうか、と解することができます。
ここでの検証には、直接的な検証と間接的な検証があります。
直接的な検証とは、直接的に観察可能な現金の実査等があり、間接的な検証は、貸倒引当金の計算や固定資産の減損等のインプットを点検し、アウトプットを再計算するものがあります。
補強的な質的特性③ 適時性
適時性とは、意思決定者の決定に影響を与えることができるように適時に情報を利用可能とすることであり、一般的に、情報が古くなればなるほど、その有用性はひくくなるものの、トレンド分析に必要な情報等、長時間にわたり適時性を有する情報もあるとしています。
こちらはわかりやすいと思いますが、企業は日々色々な経済活動を行っていて、目まぐるしく変化していく中で、財務情報が適時に入手できなければ投資判断等には役立たない、ということです。
これから投資しようとしている会社が、1年前は好調でも今好調とは限らないわけで、3カ月前に大きな打撃を受けているかもしれない。
そういった情報をできるだけ早く知るためには、適時性が担保されていないといけないわけです。
補強的な質的特性④ 理解可能性
理解可能性とは、財務情報が理解しやすいことであり、分類し、特徴付けし、明瞭かつ簡潔に表示することにより、財務情報は理解しやすくなるとしている。
当たり前のことですが、企業の財務情報は利用者が理解できなければ意味をなさないため、理解可能性が財務情報として有用であるために必要な特徴となります。
ここで注意しなければいけないのが、理解可能性を高めようとうするあまり、複雑で理解が難しいものを排除しすぎると、基本的な質的特性である目的適合性や忠実な表現が損なわれる可能性がある、ということです。
しかし、上述したように、理解可能性は補強的な質的特性であるため基本的な質的特性の方が優先されるため、複雑で理解が難しくても、基本的な質的特性が蔑ろにされるものではありません。
有用な財務報告に対するコストの制約
ここまで説明してきた質的特性ですが、これらの特性は常にコストとの相対的な関係にあります。
つまり、いくら質的特性を有する財務情報であっても、それを作成するのに便益以上のコストが生じてしまえば、言ってしまえばその情報は有用ではない、ということです。
そして、そのコストは誰が負担するのか、と言えば直接的には財務情報の作成者がその大半を占めますが、結果として投資者等のリターンも間接的に減少する、という形でコストを負担することになります。
最後に
簡潔に説明することを主旨としているため、より深い理解を求める方は是非専門書をご一読ください。
情報は適宜更新します。
※なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、いずれの団体等の見解を代表するものではありません。