会計のこと

金融資産の減損に係る予想信用損失(ECL)モデルについて

金融資産の減損に係る予想信用損失(ECL)モデル

ECLモデルを基礎とした基準開発中

現在、金融資産の減損に係る日本の会計基準は国際的な潮流とそぐわない部分があるため、ASBJにおいて予想信用損失(ECL)モデルを基礎とした基準の開発が行われています。

 

このECLモデルはIFRSで採用されているモデルであり、米国基準では現在予想信用損失(CECL)モデルが採用されています。

 

予想信用損失(ECL)モデルと現在予想信用損失 (CECL)モデル

両者の特徴は、第 466 回企業会計基準委員会によると、以下のように言及されています。

 

(1) ECLモデルでは、当初認識以降の信用リスクの著しい増大(Significant Increase in Credit Risk:以下「SICR」と記載する場合がある。)の評価に基づき、12カ月の予想信用損失と全期間の予想信用損失を切り分ける相対的アプローチを採っていること。

(2) CECLモデルによれば、金融資産の信用度にかかわらず、常に全期間の予想信用損失が認識されること。

 

日本基準とECLモデルの相違点

日本国内では、基本的に2007 年に IASB とともに公表した東京合意以後、IFRSへのコンバージェンスが進められてきていることもあり、当該基準開発においても同様にIFRSが基礎としているECLモデルを基礎とした開発が行われています。

 

したがって、ここでは現行の日本基準とECLモデルの違いを認識し、日本基準の開発が完了し導入された段階でどのような影響があるかを確認できるようまとめていきたいと思います。

 

 

評価対象の違い

日本基準では、一般債権・貸倒懸念債権・破産更生債権等、といったように区分することからわかるように、債務者単位をベースに期末日における債権の信用リスクを絶対評価するのに対し、ECLモデルでは債権単位をベースに、取組時点から期末日までの「信用リスクの著しい増大」の度合いに基づいて「将来の経済状況等の予測情報」を反映するように評価します。

 

絶対的アプローチと相対的アプローチ

前者の日本基準は「絶対的アプローチ」、後者のECLモデルは「相対的アプローチ」と言われています。

 

債権の分類

そしてECLモデル(相対的アプローチ)においては「信用リスクの著しい増大」の度合いに応じて債権をステージ1~3のいずれかに分類します。

ステージ 定義 引当額
ステージ1 信用リスクが著しく増大していない債権等 1年相当のECL
ステージ2 取組時点から信用リスクが著しく増大した債権等 残存期間にわたるECL
ステージ3 デフォルト事象が発生している債権等

 

 

日本基準においては

債務者区分 評価方法
一般債権 債権全体又は同種・同類の債権ごとに、債権の状況に応じて求めた過去の貸倒実績率等合理的な基準による(一般債権の貸倒実績率の算定期間について、一般には、債権の平均回収期間が妥当である。ただし、当該期間が1年を下回る場合には、1年)
貸倒懸念債権 債権の状況に応じて財務内容評価法又はキャッシュ・フロー見積法
破産更生債権等 財務内容評価法

 

日本基準【金融機関の場合】

正常先債権及び要注意先債権

正常先債権及び要注意先債権について、貸倒実績率又は倒産確率に基づき、発生が見込まれる損失率を求め、これに将来見込み等必要な修正を加えて貸倒引当金を計上する。

破綻懸念先債権

破綻懸念先債権については、次のいずれかによる。

  • 債権額から担保の処分可能見込額及び保証による回収が可能と認められる額を減算し、残額のうち必要額を貸借対照表に貸倒引当金として計上する。
  • 債権の元本の回収及び利息の受取りに係るキャッシュ・フローを合理的に見積ることができる債権であって重要なものについては、当該キャッシュ・フローを当初の約定利子率で割り引いた金額と債権の帳簿価額との差額について貸倒引当金を計上する。

 

実質破綻先債権及び破綻先債権

実質破綻先債権及び破綻先債権については、債権額から担保の処分可能見込額及び保証による回収が可能と認められる額を減算し、残額を貸倒償却するか又は貸倒引当金として貸借対照表に計上する。

今後の予想損失額を見込む一定期間は貸出金等の平均残存期間が妥当であると考えられるが、当面の間は、正常先債権については今後1年間の予想損失額を、要注意先債権のうち要管理先債権については今後3年間の、その他の要注意先債権については今後1年間の予想損失額を見込んでいる場合には、監査上妥当なものとして認めて差し支えない。

 

将来予測情報の有無

ECLモデルはその名からもわかるように、評価の際に、合理的かつ裏付け可能な将来予測情報の反映が求められます。基本的に期末日時点、および、過去の情報から評価する日本基準と大きく異なるポイントです。

ここで将来予測情報について、IFRS9では詳細な規定はありませんが、マクロ経済指標を用いることが考えられるとされており「GDP 成長率、金利、為替、失業率、住宅価格指数等」と、ASBJの審議資料では言及されています。

 

当エントリーは適宜加筆修正を行う予定です(23/11/11)。

 



※なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、いずれの団体等の見解を代表するものではありません。 



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