暗号資産・仮想通貨に関する会計処理
暗号資産・仮想通貨に関する会計処理については当面の取扱いとして、2018年に実務対応報告第38号「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」が公表されています。
また、2020年6月には、一般社団法人日本暗号資産取引業協会から「暗号資産取引業における主要な経理処理例示」が公表されています。
暗号資産・仮想通貨に関する会計処理の考え方については「実務対応報告第38号」を、個別具体的な会計処理については「暗号資産取引業における主要な経理処理例示」を参照する理解が進むと思われます。
最近の暗号資産を取り巻く状況
最近では、アメリカのEV企業であるテスラがビットコイン15億ドル相当のビットコインを購入したり、東証1部上場企業のネクソンが110億円分のビットコインを購入したことなどが報じられました。
2020年12月には、SEC(アメリカ証券取引委員会)がリップル社及びその創業者を提訴したことがニュースとなり、xrpの価格が暴落したことも記憶に新しいでしょう(本エントリー執筆時点の2021年6月もまだ訴訟中)。
また、2021年の今年3月~4月頃、記録的な暗号資産の価格高騰を見せましたが、本記事執筆時点(2021年6月)で暗号資産・仮想通貨全般の価格が暴落しており、数年前の価格高騰で注目されてから未だに話題に事欠かない状況が続いています。
今後、暗号資産・仮想通貨がどのような経過をたどるのか、定かではありませんが、より多くの企業が暗号資産・仮想通貨を保有、活用する可能性は十分あり得ると考えられるため、今一度暗号資産・仮想通貨に関する会計処理を確認したいと思います。
なお、ビットコインを始めとする暗号資産・仮想通貨については、2020年に改正資金決済法が施行され、正式に「仮想通貨」の呼称を「暗号資産」に改められました。
したがって、以下「暗号資産」という表記で統一します。
暗号資産の定義
では、暗号資産に関する会計処理を確認する前に、暗号資産の定義を確認します。
実務対応報告第38号では、暗号資産の定義を資金決済法に規定されている暗号資産とすることとしているため、資金決済法の定義を確認します。なお実務対応報告第38号の公表後に資金決済法が改正されているため、条文番号も変わっています。
改正後の資金決済法では、第2条第5項に以下のように定義されています。
・物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
・不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
※ただし、金融商品取引法第二条第三項に規定する電子記録移転権利を表示するものを除く
なお、金融商品取引法第二条第三項に規定する電子記録移転権利とは、セキュリティトークンのことであり、有価証券と捉えて差し支えないと思われます。
また定義文を確認しても一般的には理解しづらいものですが、ここではビットコインやイーサリアムに代表される暗号資産に関するものであることを前提として読み進めて問題ありません(細かいことですが、一般的でない暗号資産については、資金決済法上の暗号資産に該当するか否か、個別事例ごとに判断が必要です)。
暗号資産の取得原価
暗号資産の取得原価は、有価証券等と同様に、支払対価に手数料等の付随費用を加算した額となります。
マイニングによる取得の場合
なお、暗号資産を取得する方法として、暗号資産交換業者を仲介した取引が一般的であると考えられますが、マイニングによって暗号資産を取得した場合にも会計上資産として計上する必要があるためマイニングにかかる人件費や光熱費、固定資産に係る償却費等を含めることが考えられます。
暗号資産の期末評価
暗号資産を期末時点で保有している場合の取扱いについて、対象となる暗号資産について活発な市場が存在するか否かで会計処理が異なります。
活発な市場がある場合
活発な市場がある場合には、期末時点で保有する暗号資産は市場価格に基づく価額(すなわち時価)をもって当該暗号資産の貸借対照表価額とし、帳簿価額との差額は当期の損益として処理します。
なお、参照する市場価格については、通常使用する自己の取引実績の最も大きい暗号資産取引所又は暗号資産販売所における取引価格を用いるとされています。
ビットコインやイーサリアム等のメジャーコインの取引価格はどの取引所においても大きな違いはないと考えられますが、株式市場程の安定性はないため、注意が必要です。
活発な市場がない場合
新たに発行されたばかりの暗号資産については、活発な市場が存在しない場合もあり得ます。このような場合には、参考にできる市場価格がないため、取得原価をもって貸借対照表価額とします。また、棚卸資産の取扱いと同様に、期末日おける処分見込価額が取得原価を下回る場合には、処分見込価額まで帳簿価額を切り下げる必要があります。この時の取得原価と処分見込価額との差額は当期の損失として計上します。
処分見込価額については、独立第三者と相対取引を行った場合の価額等、資金の回収が確実と見込まれる金額に基づてい算出する等、一定の客観性が求められると考えられますが、資金の回収が確実な金額を見積もることが困難な場合にはゼロ又は備忘価額を処分見込価額とすることとなるため、活発な市場が存在しない暗号資産については、より慎重な判断が必要と言えるでしょう。
売却損益の認識時点
暗号資産を売却した時に生じる損益については、当該暗号資産の売買の合意が成立した時点、すなわち約定日基準となっています。
暗号資産交換業社の場合
暗号資産利用者の場合、売却による差益の獲得や決済手段として暗号資産を保有するケースが一般的と考えられますが、暗号資産交換業者の場合、サービス利用者(預託者)の暗号資産を預かるようなケースが考えられます。
暗号資産交換業者が預託者から預かった暗号資産に係る取扱い
預託者から暗号資産を預かった時
暗号資産交換業者が預託者から暗号資産を預かった場合、資産と負債を両建てします。
具体的には以下の仕訳を計上します。
預託者から100円相当の暗号資産を預かった場合の仕訳
利用者暗号資産 100 / 預り暗号資産 100
取引先から現預金などを預かる時と同様に、預かった暗号資産についてはその時の時価で資産計上し、同額で負債を計上します。この預託者から預かった暗号資産については、自身の計算で保有している暗号資産と同様の会計上の取扱いが求められます。
預託者から預かった暗号資産の期末評価
そのため、預託者から預かった暗号資産も期末時点で時価評価し、貸借対照表価額として計上します。
この時、預託者に対する負債も、預かっている暗号資産の時価と連動するため、負債も預かっている暗号資産の時価と同額として計上します。
したがって、上記の例の延長で、預かった暗号資産の時価が期末時点で150円の場合には以下の仕訳を計上します。
預託者から預かった暗号資産の期末時価が150円の場合の仕訳
利用者暗号資産 50 / 利用者暗号資産評価益 50
預り暗号資産評価損 50 / 預り暗号資産 50
このように評価損益については資産分と負債分の時価評価差額が生じ、結果として相殺されるため損益には影響しないため、預託者から預かった暗号資産については時価でBSにのみ計上されることとなります。
よって、PLに計上される期末の評価損益は、自己の計算により保有している暗号資産に係るものだけが対象となります。
開示
表示
暗号資産をどのような目的で保有しているかにより、表示方法は異なります。
暗号資産交換業者の場合には、暗号資産の保有、売買が営業目的に直結するため、営業収益として計上します。
一方、暗号資産利用者の場合には、暗号資産の売買によって生じる損益は営業外損益に計上します。
この時、損益計算書には売却取引に係る売却収入から売却原価を控除して算定した純額を計上します。
注記事項
期末日時点で暗号資産を保有している企業(預託者から預かっている分を含む)においては、下記の事項を注記することが求められています。
①暗号資産交換業者又は暗号資産利用者が期末日において保有する暗号資産の貸借対照表価額の合計額
②暗号資産交換業者が預託者から預かっている暗号資産の貸借対照表価額の合計額
③暗号資産交換業者又は暗号資産利用者が期末日において保有する暗号資産について、活発な市場が存在する暗号資産と活発な市場が存在しない暗号資産の別に暗号資産の種類ごとの保有数量及び貸借対照表価額。ただし、貸借対照表価額が僅少な暗号資産については、貸借対照表価額を集約して記載することができる。
このように保有する暗号資産については、その種類別の詳細を開示することが求められていますが、ここでGMOインターネット株式会社の2020年度有価証券報告書が非常に参考になるため紹介します。
【参考情報】GMOインターネット㈱ 2020年度 有報
貸借対照表―資産の部
上記仕訳で示したように、「利用者暗号資産」という科目があり、利用者暗号資産と区別する形で「自己保有暗号資産」という科目があることがわかります。
貸借対照表―負債の部
一方、負債の部では利用者から預かった暗号資産を示す科目として「預り暗号資産」が計上されています。
注記事項
注記事項が(1)暗号資産の連結貸借対照表計上額と(2)保有する暗号資産の種類ごとの保有数量及び連結貸借対照表計上額との2つにわけて示されています。上記で示した3つの注記事項のうち、①と②が(1)に、③が(2)に示されていることがわかります。
暗号資産・仮想通貨の税務上の取扱いとIFRSの取扱い
税務とIFRSの取扱いの詳細については当エントリーでの解説は割愛しますが、税務については現状、概ね会計上の取扱いに沿った課税体系となっています。
IFRSについては、販売目的の場合にはIAS2号「棚卸資産」、それ以外の場合にはIAS38号「無形資産」を適用することとなっています。したがって、日本基準とは足並みがそろっていない状況にあり、適用する会計基準によりBS、PLともに会計処理の結果に大きく差異が生じる可能性があります。
暗号資産を取り巻く状況の変化や会計処理に関するアップデートがあれば、またお知らせしたいと思います。
※なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、いずれの団体等の見解を代表するものではありません。