【収益認識基準】契約の識別
収益認識基準では、以下の5ステップに従って収益認識を行います。
ステップ1 契約の識別
ステップ2 履行義務の識別
ステップ3 取引価格の算定
ステップ4 履行義務に取引価格を配分
ステップ5 履行義務充足により収益を認識
今回は、ステップ1の「契約の識別」についてまとめます。
契約の識別
「契約の識別」をするとは文字通り、取引先との契約を識別することであり、ここから収益認識のプロセスが始まります。
「識別する」とは、物事の種類や性質などを見分けること、を言いますから、契約の種類や性質を見分け適切に理解する、と言い換えられるでしょう。
契約とは
契約の定義については、
「契約」とは、法的な強制力のある権利及び義務を生じさせる複数の当事者間における取決めをいう。
企業会計基準第 29 号 第5項
とあります。
ただし、収益認識基準では、契約のうち、以下の5つの要件すべてを満たすものを識別します。
(1)当事者が、書面、口頭、取引慣行等により契約を承認し、それぞれの義務の履行を約束していること
(2) 移転される財又はサービスに関する各当事者の権利を識別できること
(3) 移転される財又はサービスの支払条件を識別できること
(4) 契約に経済的実質があること(すなわち、契約の結果として、企業の将来キャッシュ・フローのリスク、時期又は金額が変動すると見込まれること)
(5) 顧客に移転する財又はサービスと交換に企業が権利を得ることとなる対価を回収する可能性が高いこと
企業会計基準第 29 号 第19項
(4)と(5)がわかりづらいかもしれません。
(4)については、一方には財もしくはサービスの享受により経済的価値が流入し、もう一方には金銭的な経済的価値が流入することを意味しています。
(5)については、事例を交えて説明します。
たとえば親会社が再建可能性の低い子会社に支援目的で1,000円分のサービスを提供したとします。
しかし、当該子会社の財務能力は相当レベルまで低下しており、300円分しか回収できない可能性が高いとしましょう。
この場合、対価の回収可能性が高い300円分は契約として識別しますが、残りの700円分については、回収可能性が低いため契約として識別しません。
以上、5つの要件について繰り返しになりますが、収益認識基準ではこれら5つすべてを満たす契約を識別します。
契約の結合
「契約の結合」という表現だとわかりづらいかもしれませんが、要は複数の契約にわかれていたとしても経済的実体として1つの取引として認められる場合には1つの契約として取り扱いましょう、ということが規定されています。
契約書Aと契約書Bがそれぞれあったとしても、
基準上は以下のいずれかに該当する場合には単一の契約とみなして処理をします。
(1) 当該複数の契約が同一の商業的目的を有するものとして交渉されたこと
(2) 1 つの契約において支払われる対価の額が、他の契約の価格又は履行により影響を受けること
(3) 当該複数の契約において約束した財又はサービスが、第 32 項から第 34 項に従うと単一の履行義務となること
企業会計基準第 29 号 第27項
契約の変更
契約を変更した場合には、パターン毎に取扱いが規定されており、注意が必要です。
条件下による取扱いの違いについて基準には細かく記されていますが、正直かなり読みにくく理解しづらいので要点を簡単にまとめたいと思います。
パターン①
契約の変更によって、既存の契約とは別の財又はサービスが追加され、その分の価格だけが増額された場合、既存の契約とは「独立した契約」として処理します。
パターン②-1
契約の変更によって、契約変更前と違う財又はサービスが追加される場合には、既存の契約を解約して新しい契約を締結したものと仮定して処理します。
パターン②-2
契約の変更によって、契約変更前の財又はサービスの一部を構成する場合には、契約変更を既存の契約の一部であると仮定して処理します。
パターン②-3
パターン②-1とパターン②-2のいずれも含む場合には、それぞれの要素をそれぞれのケースにしたがって処理します。
簡単に図にまとめるとこんな感じでしょうか。
【図解】契約の変更のまとめ
実際に契約変更が生じ、内容が複雑な場合には設例等も参考にすると良いでしょう。
※なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、いずれの団体等の見解を代表するものではありません。