資産除去債務に関するGAAP差異
時の経過による資産除去債務の調整額
資産除去債務はそれが発生したときに、有形固定資産の除去に要する割引前の将来キャッシュ・フローを見積り、割引後の金額(割引価値)で算定し、負債として計上します。
したがって、実際に資産除去を行うまでの間、期首の負債の帳簿価額に当初負債計上時の割引率を乗じて算定した金額、すなわち、「時の経過による資産除去債務の調整額」を毎期計上することになります。
日本基準の場合
一般的にこの「時の経過による資産除去債務の調整額」は、「利息費用」や「支払利息」といった勘定科目で処理されるため、「借入金利息」等と同様に営業外費用として処理されやすいですが、下記の基準のとおり「資産除去債務に関連する有形固定資産の減価償却費と同じ区分」として処理する必要があります。
時の経過による資産除去債務の調整額は、損益計算書上、当該資産除去債務に関連する有形固定資産の減価償却費と同じ区分に含めて計上する。
企業会計基準第18号 14項
よって、営業外費用として計上できないわけではありませんが、多くの場合は販管費や原価として計上されることになります。
IFRSの場合
一方、IFRSでは財務費用として認識します。日本基準内においてもIFRS上の処理に触れており、明確に差異として認識していますが、ここではコンバージョンすることなく日本独自の処理を定義しているところになります。
ちなみにIFRSでは金融費用は営業利益には含まれれないため、単なる勘定科目レベルでの差異にとどまらず、段階利益への影響も鑑みる必要があります。
時の経過による資産除去債務の調整額の損益計算書上の区分について、営業費用又は営業外費用のいずれに含めるか検討を行った。時の経過による資産除去債務の調整額は、資産除去債務の履行に関する資金調達費用と見ることができるため、財務費用として営業外費用に含めることが適切であるという見方もある。また、国際財務報告基準においては財務費用と- 15 – しての処理を求めている。しかしながら、時の経過による資産除去債務の調整額は、実際の資金調達活動による費用ではないこと、また、同種の計算により費用を認識している退職給付会計における利息費用が退職給付費用の一部を構成するものとして整理されていることを考慮し、本会計基準では、資産除去債務に係る費用は、時の経過による資産除去債務の調整額部分も含め、対象となる有形固定資産の減価償却費と同じ区分に含めて計上することがより適切であるとした。
企業会計基準第18号 54,55項
Where discounting is used, the carrying amount of a provision increases in each period to reflect the passage of time. This increase is recognised as borrowing cost.
IAS37.60
The periodic unwinding of the discount shall be recognised in profit or loss as interest expense from liabilities other than those that arise from transactions that involve only the raising of finance as it occurs and classified—applying paragraph 61 of IFRS 18—in the financing category of the statement of profit or loss. Capitalisation under IAS 23 is not permitted.
IFRIC1.8
まとめ
細かい論点ではありますが、何気なく処理を進めると誤ってしまいがちなGAAP差異を紹介しました。金額的に重要性がない場合は仮に誤ったまま進めてしまって何年も気づかない、なんてこともありそうですが、リースのオンバランスが絡んで重要性が増すリスクもあります。この機会に一度確認してみてもいいかもしれません。
※なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、いずれの団体等の見解を代表するものではありません。