キーエンスの監査報酬について
キーエンスの監査報酬
今日twitterを眺めていたらこんなツイートを発見しました。
キーエンスの監査報酬が、どれほど異常な安価だということがわかるように、時価総額上から高い順に監査報酬を並べてみた。
やっぱり、安すぎだろ。 pic.twitter.com/Z4zntRPiH7
— さすらい会計士田中。いく!! (@kBbj815JUuxbow1) July 1, 2020
連結売上5,000億円をこえるキーエンスの監査報酬が29百万円とは驚きです。
単純に売上が多ければ監査報酬も高くなる、とは言えないとは言え、ここまで安いとは。
私が監査法人にいたころ、連結売上500億円にも満たない会社でも3,000万~4,000万円は監査報酬を請求していたので、めちゃくちゃ安いなという印象です。
ロレックスが10万円で売ってるくらいの感覚ですね。
よくわからない例えかもしれませんが。
ここで、なぜキーエンスの監査報酬がこれほど安いのか、予想をしてみたいと思います。
キーエンスの監査報酬の安さの要因
キーエンスの監査報酬の安さの理由-予想その①
事業内容がシンプル。
まず最初の要因として、色々な事業に手を出していないのではないか、ということ。
事業が多岐にわたるほど、1つ1つ検証するのに要するコストは増えるので、事業内容がシンプルなのではないか、という予想です。
正直、キーエンスについて詳しく知らず、半導体で荒稼ぎしているイメージくらいしかもっていないのですが、おそらく手を出していたとしてもそれに近い製品しか取り扱っていないのではないか、と考えました。
キーエンスの監査報酬の安さの理由-予想その②
経理部員のレベルが高い。
監査を効率的に行えるかどうかは、経理部員のレベル、ひいては会社の決算体制がどれだけ整備されているかにかかっているといっても過言ではありません。
そういう意味では監査を行うにあたって、監査法人側がアレコレ余計なことをしなくて良いように、会社サイドが用意周到に手筈を整えているのではないか、と考えました。
有価証券報告書から何が見えるか
有価証券報告書を見て、監査報酬の安さの要因が少しでも発見できればと思いトライしてみました。
今回見たのは2020年6月15日に公開された2020年3月期のものです。
有価証券報告書から見える特徴
特徴その①-決算期間が独特
上述した通り3月決算ではありますが、日にちが末締めではありません。
決算期間は、このように記載されています。
第51期 (自2019年3月21日 至2020年3月20日)
こんな期間で決算を組んでいる会社見たことがありません。
このような会計期間を設定することで、各所から決算に必要な情報が取りやすく効率的に決算を組むための体制が整備されているのかもしれません。
これは効率的な決算と無関係とは思えません。
特徴その②-ファブレス企業
有価証券報告書から「ファブレス体制」という文言と、貸借対照表に機械装置がないことを鑑みると、自社で工場がないため、基本的にものを仕入れて売る、というシンプルなビジネススタイルになっており、これが効率的な決算、ひいては監査報酬の安さにつながっているものと思われます。
主要な設備の状況においても、本社・研究所や物流センター、品質評価施設等がありますが、工場の文字はありません。
特徴その③-平均年間給与18百万円
これはご存知の方も多いと思いますが、改めてみるとすごいですね、平均年収が18百万です。
これだけ高い給与を支払っていれば、優秀な人材を集めるためのハードルは下がりますから、これは監査報酬の安さと無関係ではなさそうです。
しかも平均年齢は35.6歳ですからね。
平均勤続年数も12年と長めなので、定着率も悪くないようです。
特徴その④-即納体制
受注実績の箇所に「即納体制を敷いている」という文言があり、在庫をほとんど有さないと思われます。
これも監査の煩雑さを低減している要因の1つになっていると思います。
それほど在庫の監査は面倒なものです(多くの場合、ある程度の経験のあるスタッフが担当する科目です)。
ファブレス企業だからこそできることかもしれません。
特徴その⑤-オーナー企業
こちらは監査報酬とは関係がなさそうですが、キーエンスはオーナー企業だったんですね。
社長の滝崎武光氏が、株式の7.73%を保有しており、また社長の資産管理会社と思われる会社が筆頭株主となっていて、15.07%を保有しています。
社長の滝崎氏は現在75歳のようなので、後任が気になる所ですね。
特徴その⑥-監査人員数が少ない
キーエンスでは、パートナーと呼ばれる公認会計士が2名と、そのほかに4名の公認会計士、その他8名で合計14名で監査が完了した旨、有価証券報告書に記載されています。
これも監査報酬同様、圧倒的に少ない人数で完了していますね。
例えばトヨタなんかだと、合計156名。
ソフトバンクだと合計95名です。
どれだけ少なくか一目瞭然だと思います。
14名で監査が完了できる体制を構築できている、というのはやはりスゴイことだと思います。
最後に
ここまでキーエンスの監査報酬の安さついて、何かヒントが見えるかなと思い有価証券報告書を見てみましたが、全容解明にはほど遠い結果になりました。
が、少しは会社の理解も進んだようにも思います。
監査報酬だけでなく業績や給与等、様々な観点で素晴らしいパフォーマンスを見せている企業ですので、今後も注視し、探っていきたいと思います。
※なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、いずれの団体等の見解を代表するものではありません。