成長期にある企業で、今後IPOを想定しているところでは役員や従業員にストックオプションの付与をしている、あるいは付与する予定の企業も多いかと思います。
ストックオプションは、お金を払わずに役員や従業員に対して報酬を与えることができたり、株価の上昇が役員や従業員の利益に直結するため、株価上昇のインセンティブになる(要は自分の利益のために頑張るモチベーションになる)等、メリットが多くIPO準備会社にとっては必須のツールだと思います。
ただし、なんでもかんでもストックオプションを付与すれば良いかというと勿論そうはいきませんので、ここではストックオプションのメリット・デメリットと注意点をお伝えしたいと思います。
そもそもストック・オプションとは???
ストックオプションって?
ストック・オプションとは自社の株式を原資産とするコール・オプション(購入する権利)のうち、特に企業がその従業員及び役員に報酬として付与するものを言います。
分かり易く言うと、上場して自社の株価が上がったときに安く買う権利をあげるよ、ってことです。安く買った株を高値で売ればかなりの利益になりますよ、と。
ストックオプションを付与する期待と効果
ストックオプションを付与することにより一般的に以下のような効果を期待して用いれらます。
ストック・オプションのメリットとデメリット(会社側・役員、従業員側)
会社側 のメリット
①お金を払わずに役員や従業員に対して報酬を与えることができる
②株価の上昇が役員や従業員の利益に直結するため、株価上昇のインセンティブになる(要は自分の利益のために頑張るモチベーションになる)
③権利行使期間の設定次第で、役員や従業員等の人材流出対策として用いることができる
会社側 のデメリット
①ストック・オプションの行使条件や割当数を考慮しないと、権利行使後に大量退職を招く恐れがある
②株主構成割合がゆがむ
③ストック・オプションの付与の仕方に差をつけると不平等感が醸成されてしまい、業務に支障をきたす
役員、従業員側のメリット
①給与や賞与で金銭を受け取るよりも、株式譲渡所得課税の税率の方が低く、給与や賞与よりも税額負担が小さい(税制適格要件の有無で大きく差が出るため、注意が必要。後述参照)
②権利行使が可能期間であればいつ行使しても良く、株価の上昇の度合いによって多額のリターンを得ることができる
役員、従業員側のデメリット
①税制適格要件を満たさない場合、権利行使時点で課税が行われキャッシュインがない状態で課税される。また譲渡所得ではなく退職所得となる等、税制適格ストック・オプションと比べてかなり不利になるため注意が必要である(税制適格要件について後述参照)
ストック・オプション付与時の注意点
上記のメリット・デメリットを受けて、ストック・オプションを付与する際の注意点については
①原則、税制適格要件を満たすように設計する
②従業員に付与する場合、通常の賃金(毎月の給料)の代わりにストック・オプションを付与しない
(これは労働基準法24条に違反する恐れがあるため)
③取締役に付与する場合には、会社法上の報酬規制(会社法361条)を受けるため、付与するにあたっては株主総会の普通決議を必要とする
④ストック・オプションの付与条件次第では、有価証券の「募集」に当たるため、有価証券届出書、あるいは、有価証券通知書の提出義務を負うことがある
等があります。
⑤すべてのストック・オプションが行使された際に、株主構成が適切な割合を保てるように設計する
今回はこのうち、①の税制適格要件について詳しく見ていきたいと思います。
ストック・オプションの税制適格要件で何が違ってくるの??
ストック・オプションの税制適格要件とは、この要件を満たすかどうかで税務上の取り扱いが変わってきますよ、というものです。受け取る側は要件を満たさないストック・オプションを権利行使すると税務上、非常に不利な取り扱いを受けることになってしまいます。
ストック・オプションの場合、上述のように会社側ではなく、受け取る側の取り扱いが大きく異なってくるため、付与する側は勿論、受け取る側も意識しておくと良いです。あとからこれは税制適格要件を満たしていなかった!とならないよう気を付けてください(会社側でも取り扱いは異なりますが、それはまた別に記事にしたいと思います)。
税制適格要件とは
税制適格要件を満たすには以下の要件を抑える必要があります。
付与対象者
付与対象者が新株予約権割当契約締結日において、取締役、執行役及び従業員(子会社の取締役、執行役及び従業員も含む) であることが必要です。
したがって、監査役、会計参与、会計監査人は対象外となります。監査役、会計参与あたりはいけそうな感じもしますが、ダメなので注意してください(税制非適格なら勿論付与できます)。
また、上記に該当しても大口株主(未上場の場合、発行済株式総数の1/3超を保有)及び大口株主の特別関係者はNGです。なので自分で過半数の株式を持っている経営者等も税制適格ストック・オプションは付与できません。
特別関係者は
・大口株主の親族(配偶者、6親等内の血族及び3親等内の姻族)・大口株主と事実上婚姻関係と同様の事業にある者及びその物の直系血族・大口株主の直系血族と事実上婚姻関係と同様の事情にある者・大口株主から受ける金銭その他の財産によって生計を維持している者及びその者の直系血族・大口株主の直系血族から受ける金銭その他の財産によって生計を維持している者
と規定されていて、要するに大口株主の家族とか身近な人は対象外なので気をつけましょうということです。
会社法の規定に基づき無償では発行されたものであること
税制適格を満たすためには無償で付与されたものでなければいけません。
(ストック・オプション付与時は無償ですが、権利を行使する際には行使者は金銭を払い込みます)
ストック・オプション割当契約時の要件
①年間(暦年)権利行使可能価額が1200万円までであること
②譲渡できないこと
③権利行使時の新株の発行又は株式の移転が会社法に定める手続に基づいて行われること
④権利行使可能期間が付与決議の日後2年を経過した日から10年を経過する日までであること
⑤付与契約締結日の時価以上の権利行使価額が定められていること
⑥権利行使により取得した株式について発行会社と証券会社又は信託銀行との間で一定の管理信託契約を締結し、当該契約に従い一定の保管の委託又は管理等信託がされること
①について、文字通りですが、各人が権利行使する際に1年の間で権利行使できる価額を1200万円までに設定する必要があります。給料がたくさん払えないからと言って、いくらでもストック・オプションを付与できるかというとそうでもありませんので注意が必要です(調べてみると実際にこの限度額を超えて付与してしまい、トラブルになっている事例がありました)。
⑤については、付与時の権利行使価額と株価が「権利行使価額>株価」となっている必要があります。例えば付与時点での株価が1,000円/株だとして、800円払えば1株与えるよ、っていうストック・オプションを付与した場合、上記の算式に当てはまらないため、税制適格要件を満たさないためNGです。
権利行使時に会社に対して誓約書等の提出をすること
権利行使時に、行使者にはこういった書類を記載することが求められます。
まとめ
ここまで一気に説明してきましたが、ご理解頂けているでしょうか?IPO準備会社においてストック・オプションは非常に有用ですから、多くの会社で使われていると思いますが付与する際には十分にご注意ください。株価の算定等、専門的な知識を伴うため、専門家と相談しながら慎重に付与することをお勧めいたします。
税制適格要件の有無による税務上の取り扱いや有償ストック・オプション、あるいは、ストック・オプション付与時の会計処理等についてはまた別の記事にしてお伝えいたします。
※なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であり、いずれの団体等の見解を代表するものではありません。